今と昔とそして未来 出された結果を見て、ひとつため息をつく。 「また失敗ですか……やはり簡単には完全同位体は作れませんね……」 研究を続けるためダアトに移って、早幾年。 なかなか研究の成果は得られなかった。 これではいつまでたっても先生を蘇らせることはできない。 「ジェイドさえ協力してくれれば、先に進めるかもしれませんのに……なんで研究を中断なんかするんですか、ジェイドのばか!」 文句を言ったところで、答えるものなどいない。 もう一つため息をついて、研究を続けようとしたところだった。 「ネイス博士」 以前捨てた名前を、呼ばれた。 誰かと振り返ると、そこには見たこともない人間。 というか目隠しで顔のほとんどを覆っているほどの不審人物。 「誰ですか、あなたは」 「……取引に来た」 私の問いには答えない。 声からすると子供のようだが、いったいどんな教育を受けたのか。 「私の質問は無視ですか?」 「レプリカイオンたちの廃棄日を教えてほしい」 どうやら私の質問は無視し続けるようだ。 しかも、レプリカイオンの廃棄日を知りたい? そんなことを知って、いったいどうしようというのだろう。 しかも、取引というからには私にも利があるのでは? 要求だけの取引ならご免です。 「その代わり、ゲルダ・ネビリムのレプリカ情報がどこにあるかを教えよう」 前言撤回、最高の利です。 「いいでしょう。教えなさい。私もあなたの質問に答えましょう」 私にとって、何よりも優先すべきはネビリム先生の復活。 この際彼が何者でもいい。 「ゲルダ・ネビリムが死んだとき、その情報は全てマルクト軍が引き上げたんだ。レプリカ情報もマルクトのところだよ」 ってことはモースもヴァンもレプリカ情報を持ってないってことじゃないですか! 研究ができるのは結構ですが、それでは全く意味がない! ああ、ジェイドはそのことを知っていて私の亡命を黙認したんでしょうか。 いえ、そうに違いない。 ジェイドは昔から私のすることなんて全部お見通しだったんですから。 「俺は情報を提示した。俺の質問に答えろ」 ああ、そうでした。 「レプリカイオンたちの廃棄日でしたね? 今日ですよ。今頃ザレッホ火山に……」 私が言い終わる前に、少年は走っていきました。 まさか助ける気でしょうか? どうせ間に合わないでしょうけどね。 助けたってなんの意味もないのに、危険を侵す意味が分かりませんね。 ああ、それにしてもどうしましょう。 とりあえずはダアトで実験を続けるべきでしょうか。 完全同位体の研究を終えてから先生のレプリカ情報を狙っても、遅くはないでしょう。 そうと決まればさっさと研究を続けましょう。 ああ、ルーク・フォン・ファブレの完全同位体さえ乖離せずに残っていれば、最高のサンプルになりましたのに。 ……無い物を惜しんでもしょうがありませんね。 とにかく研究、実験、です。 今度実験体にチーグルでも捕まえてきましょうか。 待っていて下さいね、ネビリム先生。 今と昔とそして未来 (遠き昔を未来に夢見て)