「こいつはアッシュ。特務師団の団長と六神将の一角を担うことになる。二つ名は、朱影(あかかげ)だ。アッシュ、挨拶しろ」

「ご紹介に預かりました、アッシュです。よろしくお願いします」

目の前にいるのは見覚えのある面子(内二人は親しい)ばかりだけど、きちんと礼をした。


「アッシュ、これから一緒、ですか!」

「同僚になるだけだけど……話す分には多分問題ないと思う」

「ほんと、ダアトに来てからやっとだよ」

六神将たちと、それから特務師団との顔合わせを済ませた後、アリエッタの部屋で話し合うことになった。

なぜアリエッタの部屋かというと、俺はまだヴァン師匠に疑われてるから密談をするには向かないし、セプの部屋もほぼ同様。

アリエッタなら結構前から教団にいるし、後ろ暗いところはないだろうと思われるだろうし、誰かが来たらフォンが気づくからだ。

ちなみに提案はセプ。

「それで、これからどうするのさ?」

アリエッタに大体の事情(主にレプリカについて)を話し終えて、アリエッタもとりあえず協力してくれることになった後、セプが切り出した。

考えては見たものの、今のところは大人しくしておくべきだろう。

「当分はこれといったことは何も。色々動き出すのは大分後だ。それまでは根回しとか鍛錬とかして過ごすよ」

「はぁ?アッシュ、そんなに強いのにまだ鍛えるの?」

「強いに越したことはないよ」

セプは若干不満そうだ。

どうしてだろう?

「アッシュ、アリエッタ、どうすればいいですか」

「アリエッタは、普通に仕事をしていればいいよ。なるべく総長に信頼されておいた方がいいだろうから……」

「分かった、です!」

とびついてきたアリエッタの頭を撫でてやる。

にこにこと笑うアリエッタはなんかかわいい。

妹が出来たみたいだ。

セプたちは弟、アリエッタは妹、(実はアリエッタが俺たちの中で一番年上だけど)兄弟のいない(当たり前だが)俺にとっては結構新鮮だ。

子育てにはまってたガイの気持ちがちょっと分かった気がする。

ふと時計を見上げれば、もう大分遅い時間だった。

「もう遅くなってきたな。俺たちはもう行くよ、アリエッタ。早く寝るんだぞ」

「お休みです、アッシュ」

最後にもう一撫でしてやってから、アリエッタの部屋を出た。


宛がわれた部屋への帰路が途中まで一緒になったから、気になったことをセプに尋ねてみることにした。

「アリエッタと仲良くなったのか?」

「は?」

「牢にアリエッタを連れて来た時は嫌悪感バリバリだったのに、今日はそうでもなかっただろ?」

聞けば、セプは(多分仮面の下で)とても複雑そうな顔をしている。

「……仲良くなったわけじゃない。ただ、話くらいは聞いてやる気になっただけ」

いやいや、あの時から比べたら仲良くなったって言うんだぞ、それは。

セプは変なところで意地っ張りだから、口には出さなかったけど。

「仲良くしろよ。いい友達になれると思うぜ」

繋がりが、お前が生きる糧となることを祈って。

小さく笑って、前と同じようにセプの頭も撫でてやる。

セプは特に何も言わなかった。

一応、近くに誰もいないことを確認してから。

「お休み、セプ」

「……お休み、アッシュ」

セプと別れた。


総長、ヴァン師匠に与えられた部屋にはほとんど何も無い。

ベッドと、書類仕事のための机と、窓が一つあるだけ。

イオンの部屋を思い出して、少し悲しくなった。

セプとアリエッタによると、イオンは病が回復してもうすぐ復帰するらしい。

つまり、レプリカのイオンがもうすぐ表に出てくる。

何とかして話したい。

火山で見つけられなかったあの子も、探さなきゃならない。

全てが始まる日まで、あと一年半。

やっぱりやることやらなきゃいけないことは山積みだ。

未来は少しずつ変わっている。

オリジナルのイオンだって、預言に逆らって、少しでも生き延びようとしていた。

あいつのためにも、諦めたりなんてできない。

「ローレライ」

今はきっと地核にいる、俺を生み出した存在。

「俺はきっと限りなく異端で、本当ならありえない存在なんだろうけど」

声が届いているかなんて知らない、どうやったら届くかなんて分からないけれど。

「それでも、俺はお前に礼を言いたいよ」

出来れば届くといい。

「まだ何も終わってない、むしろこれから始まるんだけど」

俺の願いを聞き届けてくれた、あんたへ。

「少なくとも俺は自分の望みの通り生きることが出来るから」

預言とも、あの未来とも違う結末を目指す俺から。

「ありがとう」

せめてもの、お礼を。

「最後は、まだわからないけど、お前もきっと地核から解放するよ」

ああ、出来れば届け。

「その時まで」

この想い、伝わりますように。


「見守っていてくれな」


父たる貴方へ一片の想いを
(本当は一つの感謝なんかじゃ表しきれないけれど)