ばち、と目を覚ます。 視界いっぱいには、見慣れてきた自分の部屋の天井。 時刻は多分昼。 普段なら、こんな時間に寝ているなんてありえない。 寝る前のことが全く思い出せない。 自分は何をしていた? ええと。 頭を悩ませていると、扉が開いた。 そちらへ目を向ければ、扉を開いた張本人が目を見開いて立ち尽くしている。 「アッシュ!」 それから、飛ぶように抱きついてきた。 とりあえず受け止めて、涙さえ浮かびそうな顔を覗き込む。 「アリエッタ?」 「よかった、よかったです、アッシュ…… アリエッタ、アッシュ、もう目が覚めなくなっちゃうんじゃないかって……」 イオンと同じように、というのは言われなくても分かった。 震えるその背中を、ぽんぽんと叩いてやる。 「アリエッタ、俺、眠る前のことあまり覚えてないんだが……教えてくれるか?」 大分落ち着いたころに、そう尋ねてみた。 アリエッタは頷いて、少し距離をとって俺を見上げる。 「はい、です。アッシュ、魔物の殲滅任務が終わってすぐに、倒れたです。 特務師団員たちがダアトに運んできて……それから、ずっとアッシュ、眠ってたです」 アリエッタにそういわれて、ようやくぼんやりと思い出せてきた。 そうだ。 魔物を超振動で倒して……そこで記憶が途切れている。 無茶をしすぎたか。 だけど、“その時”が近かったから、つい……。 ……あれ? 端と思考が止まる。 顔から血の気が引いていくのが自分でも分かる。 「アリエッタ、今日は何日だ?」 「レムデーカン・ローレライ・21の日です。アッシュ、四日も倒れてたです」 やばい、やばい。 まずい。 “その時”が。 “来るべき日”が、来る。 すぐさま起き上がって、身支度を整え始めた。 「アッシュ?急に起き上がったら」 「アリエッタ、すぐにネアに乗って出て行けるように準備してくれ!」 アリエッタの制止を遮って、そう頼む。 アリエッタはまた首をかしげた。 「え?」 「アリエッタの母親が……ライガクイーンが危ないんだ!」 その言葉に、アリエッタがぶるりと震えた。 顔を真っ青にして、すさまじい勢いで部屋を出て行った。 ネアを探しに行ったに違いない。 時間が無い。 今すぐ行って、間に合うかどうかさえ微妙なところだ。 ばたばたと旅立つ準備を整える。 服を着、剣を持ったところで、おそらく仕事をしているだろう、弟分が思い出される。 ごめん。 探す時間が無い。 説明している時間も無い。 師匠に出立続きを取っている時間なんてもっと無い。 心の中だけで謝って、剣とゴーグル、ペンと紙を持って部屋を飛び出した。 教会の外に出れば、準備万端待ち構えたアリエッタとネア、フォンとグリフォン種の魔物がもう二体。 「話は向かいながらする!今すぐ発つぞ、アリエッタ!」 「はいです!」 アリエッタと一緒にネアに乗り、フレスベルグたちがフォンを運びながら、ダアトを出発した。 ライガクイーンがチーグルに森を焼かれ、南に移ったところを人間に駆逐されるかもしれないと、 アリエッタに説明する。 ライガクイーンの命が危ないと聞き、アリエッタはネアたちに全速力で飛ぶように頼み込んだ。 二日後、おそらく空を飛んでいる間に、“来るべき日”の“その時”は来る。 レムデーカン・レム・23の日。 全てが始まる日。 きっとあの時と同じようにティアがファブレ家に忍び込んで、 アッシュ、今はルークと擬似超振動を起こしてタタル渓谷に着くだろう。 そして馬車に乗って、エンゲーブに。 おそらく、俺が倒れている間にイオンも和平の一行に加わって、エンゲーブにいるだろう。 彼らがライガクイーンの元にたどり着くまでに、こちらがたどり着かねば。 あの時死んでしまった、いや俺たちが殺してしまった命。 だからといって、今回も死んでいいはずはない。 猛スピードで飛ぶネアから振り落とされないようにしっかり掴まる。 間に合ってくれと、祈るばかりだった。 青い、空へ (死なせたくない。悲しませたくない)