小話閑話集3


7.名付け


助けたレプリカイオンたちを連れ、以前イオンに貰った家に向かった。

元は、ダアトの信者が住んでいた家らしいが、持ち主が亡くなってから教団に寄付されたらしい。

それを俺が譲り受けたというわけだ。

ちょくちょく来ては掃除整理しておいたから、とりあえずはすぐ住める。

ああ、でもその前にこいつらに服を着せて……名前、だな。

泣き疲れて眠って、譜術で運んできた彼らを順に見回す。

こうして並んでいると、みんな同じ顔に見える。(実際同じ顔だが)

しかし、自我が芽生え始めてくれば、その性格に沿った顔つきになっていくことだろう。

とりあえず彼らをベッドに寝かせて、毛布をかけて、タンスから服を用意しておく。

さて、名前を考えなくては。

三人分だ。

五人、考えるつもり、だったのだけれど……。

頭を振って、一度その思考を追い出す。

まずはこの子たちを育てることからだ。

死というものをこの子達が理解できるようになった時に、話をしよう。

生まれてすぐに死んでいってしまった、兄弟達の話を。

ああ、名前、名前と。

二人はすぐに決まった。

ヴィスクス、長いから普段はヴィンと呼ぶか、古代イスパニア語で“豊かな心”。

ルミナリウム、こっちはルミナだな、古代イスパニア語で“光を放つ者”。

最後の一人は、随分悩んだ。

分かってしまったのだ。

他の誰よりも、自我が芽生え始めていた彼が、誰であるか。

前回の、シンクだ。

空っぽだと叫んで、地殻に身を投げ、ヴァンに助けられ、そして俺達が殺した。

結果的に、彼は二回も死んでしまったことになるのか。

きゅ、と拳を握り締める。

今度は、死なせない。

もう絶対に、あんな悲しいことは、おこさせない。

シンクとは、古代イスパニア語で“怒り”。

シンクがその名前に何を思ったのか、俺にはもう分からない。

だけどせめて、今一度の生では、幸せな人生を手に入れてほしいと願う。

決めた。

この子の、名前は、サスセプト。普段はセプと呼ぶことにする。

意味は、古代イスパニア語で、“護る者”。

憎しみなんて与えない。

たくさんの、愛情と慈しみを持って、この子たちを育てよう。

「ヴィスクス、ルミナリウム、サスセプト。どうかいい夢を」

静かに眠る子ども達に、静かに囁いた。


8.体質


ようやく日にち感覚が付き始めるころ、アッシュが僕たちに戦い方を教えてくれることになった。

「本当は、こんなこと覚えないに越したことはないんだけどな…」

そう言ってアッシュは苦笑する。

その微妙な笑顔の意味は、まだ分からない。


戦い方の基本は、三人で習った。

武器の持ち方とか、力の入れ方、攻撃の避け方、譜術の唱え方も教わった。

ふと、気づいたようにアッシュが僕を呼ぶ。

「ヴィン、ちょっとこっちに来てくれ」

ちょっと疑問に思いながら近づくと、アッシュが僕をじっと見た。

「えっと、アッシュ?」

どうしたんだろう。

「ヴィン、ちょっと詠唱してみろ」

そう言われて、指差されたところにある標的に向かって譜術を唱えた。

「さくれつするちからよ、エナジーブラスト!」

そう叫ぶと、そこにあった標的は粉々に砕けた。

「わ、すげー」

後ろでルミナが驚いている。

セプは無言だった。

アッシュはというと、何か呟いている。

「音素が多すぎる……訓練を何も積んでいない十二歳、

実質数ヶ月の子に集められる量じゃない……でも意図的に集めているわけでもなさそうだし……」

アッシュの言っている意味は、よくわからなかった。

「アッシュ、ぼく、なにかわるいこと、した……?」

びくびくしながら見上げると、アッシュはいつものように笑って頭を撫でてくれた。

「そうじゃないよ。何でもない。さ、そろそろご飯にしようか」

そういうと、立ち上がってルミナとセプにも同じことを伝えた。

喜ぶルミナと、頷くだけのセプ。

そこにあったのはいつもを同じ光景だったから。

なんだか安心して、手を伸ばしてくれたアッシュの手を掴んで、みんなで一緒に家に戻った。


9.武器


「ルミナは、なんだか左手が余ってるな」

アッシュがそういったのは、昨日。

そして今日、俺の手には二本の短剣が握られていた。

その短剣を持って、アッシュに言われたとおり人形に攻撃を放ってみた。

驚くほど手に馴染む。

まるで体の動かし方を知っていたみたいだ。

「やっぱりルミナにはこっちの方がいいみたいだ。ルミナ、今度からそれな」

俺の練習を見ていたアッシュが、納得したように頷いた。

「え、くれるのか、これ!?」

「もともとお前のために買ってきたんだから。

俺は二刀流は修めていないから、これからはお前が自分で力を磨くんだぞ」

「おう!」

アッシュが俺のために買ってきてくれた武器だ。

これを使って、絶対に強くなって、アッシュに褒めて貰おう。

そう考えたらなんだか嬉しくなって、もう一度アッシュにむかって笑った。