小話閑話集5


12.眼帯


「そういや、ヴィン、左目、何で隠してるんだ?」

そういってガイさんが指差したのは、僕の左目の眼帯。

その下には譜眼がある。

あまり人目にさらさない方がいい、というアッシュの言葉を受けて、眼帯をしていた。

なんて答えるべきだろう。

「あの、その……僕の眼、えっと……ちょっと、変で」

「変?」

やばい、墓穴掘ったかも。

でも、下手に失明とか言ったら、のちのち何かあったら大変だし。

うーん。

「外せ」

考えのまとまらない内に、ルーク様に声をかけられた。

思わず間抜けな声を上げる。

「え」

「何も言わないから、外せ」

……これって、命令、だよね?

あまり見せたくないんだけど、命令には逆らえないし。

……今さらだ、もうどうにでもなれ!

やけくそ気味に眼帯を外した。

久しぶりに出した左目に当たった、太陽がまぶしい。

それでもしっかりと眼を開く。

ルーク様とガイさんは僕の眼を凝視しているらしい。

「青、だ」

「オッドアイってやつか」

あれ、意外と反応薄い。

「なるほどな、心無いものに何か言われるかもと思って、隠してたのか」

うんうんと頷きながら、ガイさんが頭を撫でてくれる。

ルーク様も特に何も言わなかった。

あれ、何でだろ、なんか。

嬉、しい。

「分かった、もうつけていい。屋敷のものには、お前の眼帯について追求しないように言っておく」

「優しいですね、ルーク坊ちゃま」

ガイさんはなんだかにやにや笑いだ。

ルーク様はそっぽ向いて踵を返す。

「あ、ルーク様!」

慌てて眼帯を付け直して後を追う。

僕は護衛だから、ずっと傍にいなくちゃ。

屋敷の中、後ろを付いていきながら、小さな声で。

「ありがとうございます、ルーク様」

ルーク様は返事しなかった。

でも、心なし赤い耳が、全てを物語っている。

ルーク様の言ったとおり、他の人が僕の眼帯について聞いてくることは無かった。


13.歩み寄り


「シンク」

「何さ」

振り向けばピンクの髪のちっこいあいつがいた。

あ、そういや話しているところをあまり見られないようにしないと。

きょろ、と少し辺りを見渡せば、アリエッタが少しこちらを見上げて。

「大丈夫です、誰も近くにいないです」

隣のフォンというライガ族が吼える動作をした。

ああ、獣だもんな。

感覚は鋭敏か。

まあ、周りに気を使っていたのはいいとして。

「で、何の用?くだらない話なら聞かないよ」

アリエッタは肩をびくんと跳ね上げさせる。

隣のフォンが威嚇に睨んできた。

何さ、何か文句あれば言えばいい。

言われても分からないけどね。

「あの、アッシュに、これ、届けて欲しいです」

おずおずとアリエッタが差し出したものを受け取る。

小ぶりな布袋を開けてみれば、小さく固形のものがたくさん入っている。

何だこれ。

でもどっかで見たことが……。

「フラーメのご飯。アッシュの牢、それ、なかったみたいだから……困ると、思って……」

思い出した。

家で、アッシュがフラーメに食べさせてたやつだ。

そういえば、確かにあの牢には無かった。

適切な食事が無ければフラーメは弱ってしまうかもしれない。

つまり、アッシュが困る。

もしかしてこいつ、最初から気づいてたのか?

あの時言いかけたのは、このことか?

僕が気づかなかったことにこいつが気づくというのはちょっとムカつくけど。

これは、アッシュのためのものだ。

「……渡しとく」

そして、自分じゃうまく届けられないのも理解している。

だから僕に渡してきた。

思っていたよりは頭が回るようだ。

「お願い、です。アッシュ、フラーメ大事にしてたから」

ああもう分かったよ。

ちゃんと届けてやるからそんな目で見るな。

「じゃあ僕はこれ私に、アッシュのとこ行くから」

ぷい、と背を向ける。

「あのっシンク……っ!ありがとう、です」

その礼が何に対するものなのかは知らない。

これについてなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

まあどっちにしても大して変わりはしないけど。

「はいはい」

対等に考えてやるくらいは、いいか。