小話閑話集6


14.捜索


火山で見つかったレプリカイオンたちは三人。

その中に、あの子はいなかった。

下を探しに行ってみたかったのだけれど、泣き疲れた三人を放っておくわけにもいかず。

「ごめん、後で必ず来るから、待っててくれ、フローリアン」

そう言うことしかできなかった。

後で何回も火口に足を運んでみたけれど、フローリアンを見つけることは出来なかった。

もしかしたら、もうモースのところにいるのかもしれない。

それならばまだいい。

生きて、いるから。

生きていて欲しい。

火口で消えてしまったなんて思いたくない。

生きていると信じたい。

信じて、探しに行きたい。

そんな時、懐かしいあの人に会ったのだ。


「もう一人の、僕の兄弟?」

「ああ。多分、この教会のどこかにいると思うんだ」

「シンクのきょうだい……」

恒例となったアリエッタの部屋での話し合いで、そのことを話した。

「本当、に?」

「ああ」

セプは信じられないようだ。

当たり前かもしれない。

目の前で自分以外のレプリカたちが落ちていくのを見ていたはずだ。

その内の一人が、生きているなんて。

「探しに行きたいんだ」

反対する者は誰もいなかった。

おそらく教会の中でもかなり高い地位にいるものしか入れない、最奥部にいると辺りをつける。

その線で計画を立て始めた。

無垢で、明るい、フローリアン。

今から、探しに行くから。

会いに行くから。

あの時伸ばせなかったこの手を、掴んでくれ。


15.兄弟


助け出したフローリアン(アッシュが名づけた。最初から名前は決まっていたらしい)は、ルミナの元に送られることになった。

ダアトにいたらいつ見つかるか分からないし、ヴィンは既にバチカルの貴族の家に奉公しているからだ。

ルミナなら自由で身軽な立場にいるし、今あいつが一緒にいる漆黒の翼とやらもいいカモフラージュになるだろう。

教育の面ではすごく心配だけど、まあ、アッシュ曰く漆黒の翼のリーダーは面倒見がいいらしいから、きっと何とかなる。

多分。

ルミナたちがダアト港に迎えに来るまで、アリエッタの友達たちと森で待っていることになった。

そして僕らは、それまで時々、時間を見つけては会いに行っている。

「あ、アッシュとセプだ!」

「元気そうでよかったよ、フローリアン」

アッシュがフローリアンの頭を撫でる。

それは僕たちやアリエッタにもしていることで、最近ようやく、それはアッシュが自分の妹弟分にすることなのだと分かった。

「もう少しでルミナが迎えに来るから、そしたらここから出ていろんなところに行けるようになるからな」

「でも、アッシュたちにはあえなくなっちゃうよ」

しゅん、とフローリアンが落ち込む。

アッシュはなるべく明るい笑顔でフローリアンを励ました。

「大丈夫だよ。もう会えないわけじゃない。任務で外に出るようなことがあれば、会う機会もある」

うん、とフローリアンが頷く。

アッシュがフローリアンと話していると、魔物たちがアッシュのすそを引いた。

「ん、どうした?」

「あ、そうだ。けがしたともだちがいるんだ。アッシュ、なおしてあげて」

魔物たちと多少暮らすうちに、フローリアンも魔物の言葉が分かるようになってきたらしい。

将来がちょっと心配になった。

アリエッタみたいに幼くならなければいいけど。

ただでさえ、僕たちは外見年齢と実年齢が合ってないんだから。

魔物たちに回復譜術をかけているアッシュを見ながら、フローリアンの隣に座った。

「セプ、セプはどう?」

「何が?」

「さいきん」

世間話か。

まだ語彙の少ないフローリアンは、時々文が変だ。

まあ、これから覚えていけばいいのだけど。

「別に、普通だよ。相変わらずヴァンは鬱陶しいし、リグレットは厳しいし、ディストは変だし、ラルゴはでかい」

「おしごとは?」

「今のところ大きな動きはないからね。討伐とか調査の任務とか書類処理を延々としてるだけだよ」

フローリアンから返事が返ってこなくて、そちらを見ると軽く煙を吹いていた。

「ふぇ?」

「ああ、ごめん。アンタにはまだ難し過ぎたね」

外に出て数日のフローリアンに、書類処理なんて単語、分からないか。

くしゃ、と頭を撫でてやると、フローリアンは嬉しそうに笑った。

「セプ、おにいさんみたいだね」

おにいさん。

僕、兄?

そういえば僕は三人の中では一番下で――あれ?

首をかしげたとき、治療を終えたアッシュが戻ってきた。

「年……と言っても数時間とか数日の差だろうけど、お兄さんなのはフローリアンだろう?」

「え?」

「フローリアンが三人目で、セプが六人目だって聞いたことがあるから」

え、じゃあ、ってことは……。

「ぼく、セプのおにいさん?」

「ええええーーーっ!?」

思わず声を上げた。

近くの魔物たちが驚いている。

だってだってだって。

こいつが、どう見ても幼さを残すフローリアンが、僕の兄?

「そんなっ!」

うん、僕らしくないのはわかってる。

それでも、末だった僕に、弟が出来たようで嬉しかったのに。

その弟は、僕たちの中で一番年長だった。

何これ、運命のいたずら?