小話閑話集7


16.教育


「というわけで、こいつも一緒に連れて行って欲しいんだ」

フローリアンを連れて、漆黒の翼のアジトへと戻った。

ノワールが許可してくれないと、ここに置いておけないしな。

「それは、まあいいけど……あんたが面倒見るんだよ」

最初からそのつもりだったから、当然とばかりに頷く。

「もちろん」

「よろしくおねがいしますっ」

フローリアンがぺこりと礼をした。

あー、弟が出来たみたいなんだけど……一応順番的には兄なんだっけ?

でも別に弟でいいんじゃないか?

「はい、よろしく。で、あんたの名前は?」

「フローリアン!ア」

「あーっ!!」

フローリアンがいいそうになるのを、大声を出して遮った。

危ね!

急いでフローリアンの口を塞ぐ。

フローリアンはきょとんとしたままされるがままだった。

その様子で、察してくれたのかもしれない。

ノワールがため息を吐きながら続けた。

「……あんたの、育て親の話しかい」

「そ、そう。……ごめん」

アッシュは、今はあまり目立ちたくないと言っていた。

だから、ノワールたちにもアッシュのことは言っていない。

散々世話になっているのにそれは申し訳なくて、とりあえず謝っておいた。

「ま、詳しい事情は聞かないでおくよ。部屋はあんたの隣が空いてたからそこを使わせてやりな」

ノワールは俺とフローリアンを一度ずつ眺めてから、手をひらひらさせる。

ああ、やっぱこの人めっちゃいい人だよほんとに。

にしてもやっぱ同じ顔っての、気になんのかな。

「分かった。サンキュ。フローリアン、こっち」

「はあい」

物珍しそうに(実際珍しいだろうが)あたりを見回していたフローリアンを呼ぶ。

目を離すとここの譜業にふらふらとつられていきそうなフローリアンを、

殆ど引っ張るようにして案内した。

俺の部屋の隣。

ここ、ナム孤島のちょっと奥まった場所。

「ここがお前の部屋だ。隣が俺の部屋な」

「ぼくのへや!?」

フローリアンがわくわくしながら部屋に入る。

だがすぐに落胆した。

部屋には殆ど何もないからだ。

ま、今まで空き部屋だったんだから、当然っちゃ当然だよな。

その、何もない部屋に、アッシュから預かってきた荷物を持ち込んだ。

中身は、俺達も使っていた文字の本とか、歴史とか地理の本とか、譜術の本。

それらを、空いていた棚に入れていく。

入れ終わってから、改めてフローリアンに説明を始めた。

「いいか、フローリアン。まずしなきゃならないのは、色々なことを覚えることだ」

「うん」

俺が改まったのを感じたのか、フローリアンは素直に頷いた。

「お前は歩くのと喋るのはもう大丈夫みたいだから、あとは一般教養……

俺これ苦手なんだけど、頑張んないとな……と、出来れば譜術の使い方。

アッシュが見たところ、お前には譜術の才能があるみたいだから」

「どうすればいいの?」

「譜術はぶっちゃけ俺じゃあ教えられない。

だから、ナム孤島にいる譜術士に基礎を教わって……

後はアッシュかセプに会った時に教えて貰おう。

だからその時までに、基礎はちゃんと押さえとくんだぞ?」

「はーい!」

うん、ほんとに素直だ。

これなら吸収も早いかもしれない。

…俺と違って。

「で、一般教養は、俺達がアッシュに教わった時に使ったこの本を使う。

ゆっくりでいいから、ちょっとずつ覚えよう。まずは文字からだ。今からやれるか?」

「大丈夫!」

その元気のいい返事に満足して、俺はまず文字の本を取り出した。

さーて、気合入れてやるか。

フローリアンが知識を見につけられるかどうかは、俺にかかってるんだ!


17.武芸


「てやっ」

「うわ!」

カラン、と剣が落ちる音がした。

それの持ち主は、そこから少し離れた場所。

すぐ距離をつめて、剣を持ち上げた。

「武器奪取。僕の勝ちですね、ガイさん」

「はー、強いな、ヴィン」

ガイさんが、服をはたきながら立ち上がった。

どうやら怪我はないらしい。

良かった。

僕達は今、屋敷の中庭で模擬戦をしていた。

結構危なかったけど、何とかガイさんに勝てた。

少し離れたところで見ていたルーク様が驚いたように聞いてくる。

「確かに……改めてみると、とても一朝一夕じゃ身につかないような動きだ。

最近の孤児院では武術まで教えるのか?」

「最近のっていうより、僕を育ててくれた人が特殊なんだと思います。

近頃は物騒だから、自衛の手段くらい持っておくべきだって」

「ま、そりゃそうだ」

剣をガイさんに返すと、ガイさんは一度傷ついたところを確認してから鞘に戻した。

「ヴィンの育て親は強いのか?」

「ええ。とっても。僕なんて足元にも及びません」

ルーク様の質問に、誇らしげに答える。

アッシュはとても、とても強い。

それは僕達の誇りだ。

たまに、強すぎて、いつになったら追いつけるんだろうと本気で悩むけど。

「その人も、体術使いなのか?」

「いいえ。剣士ですよ。

でも、体の基本的な使い方とかは、そう変わらないからって、教えてくれていたんです」

そういうと、ルーク様が少し嬉しそうな顔をした。

「強い剣士、か……機会があったら手合わせしてみたい」

「お、そりゃいいねぇ。俺も手合わせしてみたいよ。

って言っても、ヴィンに負けてるくらいじゃ勝てっこないだろうけど」

ガイさんが軽く笑う。

その前に、手合わせなんてできないんじゃないだろうか。

アッシュダアトだし、あんまり自由きかないらしいし、そもそもアッシュはルーク様のレプリカだし。

「手紙などを書くようなことがあったら、その旨を伝えておいてくれ。

ダアトの人間ではあまり無理強いはできないが」

「……はい」

とりあえず頷いておいた。


書いてはみるけど……やっぱ無理だろうなあ。