小話閑話集8


18.心配


「アッシュ、大丈夫ですか」

「大丈夫だ、アリエッタ」

アッシュはふらふらと歩いている。

大丈夫だとは言っているけれど、とても大丈夫そうには見えない。

「疲れてる、ですか」

「ん、任務続きで、ちょっとな。もう少しで任務も落ち着くはずだから、大丈夫」

わしゃわしゃと頭を撫でてくれる。

それは嬉しかったけど、やっぱり顔色の悪いアッシュは心配だった。


「アッシュが心配だって?」

「そう、です。何でアッシュ、あんなに任務、あるですか」

シンクに相談した。

アッシュに関してのことを相談できるのはシンクしかいない。

シンクは、シンクも怒ったような顔をしてる。

「ヴァンが、アッシュの持久力を見るために集中的に任務入れてるんだよ。

あと二日三日でそれは終わるはずだけど……僕らにはどうしようもないよ」

「総長に言っても、止めてくれない、ですか」

「止めてくれないだろうね」

総長はまだアッシュを疑っていると、シンクは言った。

アッシュはそれなりに総長の信用を得たいらしい。

そのためには、今の試練をクリアしなければならないらしい。

「僕たちも我慢しなくちゃいけないんだ。アッシュのためにね。分かった?アリエッタ」

「……はいです」


でも、見かけるたびにアッシュの顔色が悪くなっていくのを見ると、不安になる。

本当にアッシュは大丈夫なのだろうか?

倒れたりしないのだろうか?

アッシュが倒れる、そう思うと体に寒気が走る。

イオン様みたいに、もう起き上がらなくなってしまうんじゃないだろうか。

目覚めなくなってしまうんじゃんないだろうか……?

ぶんぶんと首を振る。

そんなことは絶対に嫌。

そんなこと、させない。

…………やっぱり、言いにいってみよう。

総長よりはリグレットの方がいいかもしれない。

「アッシュ、待っててね」

ここにいないアッシュに話しかけて、リグレットを探すべく走り出した。


19.指令


「シンク、アッシュはどうだ」

「頑張ってるんじゃないの?任務もちゃんとこなしてるしね」

「そうか」

ある日、ヴァンに呼び出された。

最近、ヴァンはアッシュの持久力を見るために集中的にアッシュに任務を入れている。

その過密なスケジュールに、ここ最近アッシュの顔色が悪くなってきた。

アリエッタにも相談されている。

ヴァンにアッシュを監視するように言われた時はラッキーだと思ったけど、

まさか一番身近でアッシュの苦しむ顔を見ることになるとは思わなかった。

アッシュに止められてなかったら、今すぐ、こいつを。

「ふむ、あと三日ほど、やらせれば十分だろう。この後の計画にも支障は出まい。

シンク、監視は怠るなよ」

「分かってる」

ムカつくけど、素直に頷いてやる。

すると、ヴァンは満面の、それでいて凶悪な笑みを浮かべる。

全身の毛が逆立つ。

「あいつは、預言を変えるための大切な手駒だ。決して目を離すな」

ぎり、と拳を握り締める。

何とか声を震わせないように、さりげなくを装って退室を申し出た。

「分かってる。僕はもうそろそろ行くよ。仕事があるから」

ヴァンが偉そうに頷く。

僕は足早に部屋を出た。

握り締めた手が解けない。

ムカつく、イラつく、許せない。

おそらく今仮面の下で、僕は怒りの表情を浮かべているだろう。

アッシュを、使い捨ての手駒扱い。

アッシュは僕の大切なひとだ。

僕たちを助けてくれて、育ててくれた、大切なひとだ。

お前なんかの手駒なんかじゃない。

後ろにある扉が恨めしく思える。

この扉の奥に向かって秘奥義を放ってやろうか。

構えを、取ろうとした。

でも、ふ、と言葉がよぎる。

『頼むよ、セプ』

『総長に取り入って、総長の目的を探って欲しいんだ』

ああ、もう!

あの人が、アッシュさえ許してくれるのなら、今にでも殺してやりたいのに!

誰より、アッシュ自身がそんなことを許してくれない。

怒りを払うことができないまま、仕事をするために執務室に向かった。


20.プロローグ


最近、任務が立て込んでいる。

こっそり教えてくれたセプによると、師匠は俺の力を測ろうとしているらしい。

もうすぐ、“その時”がくるというのに、何とタイミングの悪い。

いや、もしかして狙っているのだろうか?

目の前にいた魔物を一体倒す。

今日はダアト周辺に出る凶悪な魔物の討伐だ。

アリエッタの友達ではないけれど、知ったら悲しむかもしれない。

ああ、そういえばアリエッタにも心配されていたな。

これがひと段落ついたら、少し休んで安心させてやらないと。

でも、すぐに出かけなくちゃいけないだろうな。

“その時”が来るのならば、行かなければならないところがある。

また周りにいた魔物を三体倒す。

ヴィンはバチカルでうまくやっているだろうか?

数日前に手紙を送った。

間に合うといい。

ルミナは確か今はケセドニアにいた。

色々手回しを頼んでいる。

フローリアンも一緒なはずだ。

二人とも、元気だろうか。

今度は譜術で五体ほど倒した。

“その時”が、もうすぐ来る。

全てが始まる。

物語が、動き出す。

周りで、数体の魔物が唸りを上げる。

「邪魔を、するな……」

剣を、構える。

行かなくては、ならないんだ。

手に力を込める。

「うおおぉぉぉぉ!レイディアント・ハウル!」


視界は、真っ白になった。