一番最初に視界に入ったのは、紫色の空。

次に見えたのは、嘘かと思うほど冷たい顔をした、大切な仲間達。

その次に目に入った、今、自分がいる場所。

何の悪い冗談かと思った。

だって、あんなにもたくさんの人達の命を喰らって、瘴気を中和したのに。

必死に、戦って、仲間たちも少しは自分を認めてくれていたと思ったのに。

それこそが全部夢だったのか?

だって、ここを知っている。

この場面を知っている。

仲間たちが今言っている言葉に、聞き覚えがある。

「私はブリッジに行きます。これ以上いるとバカがうつりそうなので」

「ルーク…!」

「イオン様、あんな奴に構うことありません!行きましょう!」

「あなた、変わりましたね…記憶を失ってからのあなたは、まるで別人のようですわ」

「ルーク…あまり俺を幻滅させないでくれよ」

「あなたにも、少しはいいところがあると思った私がばかだったわ」

悪い夢なら、覚めてくれと思った。


仲間達と何も話すことなく、タルタロスはユリアシティに着いた。

覚えている。

俺の記憶の通りなら、きっとそこに。

「いるんだろ、アッシュ…」

「はっ屑にしてはやるじゃねえか」

あの時と同じように、アッシュが現れた。

…固まった。

そう、アッシュがいた。

俺を行かせて、戦い続けて、串刺しにされて死んでしまったアッシュ。

記憶の最後で、冷たくなって、自分と一緒に第七音素の渦に飲み込まれたアッシュ。

彼が、そこで生きていた。

アッシュが何か言っている。

多分記憶と同じ内容なのだろうが、あまり頭に入らなかった。

だから、彼が斬りかかって来た時も、反応が遅れた。

ぎりぎり、反射的に避ける。

なぜかあの時よりアッシュの動きが鈍いように見えた。

…違う、アッシュが鈍いんじゃなくて、俺の目が鍛えられたんだ。

もっと強くなったアッシュに、シンクにラルゴ、リグレットとアリエッタ…ヴァン師匠。

考えたら、結構厳しい戦いをどうにか潜り抜けてきたのだ。

例えそれが夢だったとしても、その戦闘経験は確実に蓄積されている。

考えごとをしながら避けるくらいには、余裕があった。

本当にこれは現実か?

こっちが夢なのか、あっちが夢なのか。

これは音素帰った自分に与えられた罰なのか。

それとも、あっちが自分で勝手に作り出した妄想だったのか。

分からない。

それでも、ただ一つ確かなことがあった。

自分がアクゼリュスを滅ぼして、一万人もの命を奪ったこと。

この手が、血に塗れているということ。

「は、はは…」

足を、止めた。

「あははははは!」

空を仰いで、笑い続けた。

だって。


生まれつきの罪人は、安息すら与えてはもらえないのか。


血塗れの手で、鐘を鳴らす
(それが始まりなのか終わりなのかは、誰も知らない)