白い白い世界に自分がいた。 何も、なかった。 声だけが聞こえた。 『ルーク』 確かに、自分の名前を呼ぶ声だった。 しかも、聞き覚えがあった。 紫色の空を見る前に、最後に聞いた声。 「ローレライ…」 『無事に流れたか』 訳が分からなかった。 『そこは、巻き戻された世界だ。我の力で、世界全体の音素を逆行させた』 「…つまり…過去?」 いくら音素集合体だからってまさかそんな。 『人間はそう呼ぶだろう』 「なら、どうしてここに戻した。どうしてアクゼリュスの人間を助けさせてくれなかった!」 よりにもよって、崩壊後。 一万人の人が、一瞬にてその命を失った、後。 その前なら、まだ助けられたかもしれないのに! 『済まぬ、そこからしか始めることが出来なかった。 我に出来るのは、預言が道を外れる地点まで戻すこと…つまり、鉱山の町が崩落した直後だった』 「…何だそれは」 『栄光を掴む者が、お前を生み出し、 本物の聖なる焔の光を使わなかったところで、初めて預言は歪み始めた。 星の記憶は、それ以前の、預言どおりに進んだ世界を崩すことを拒否した。 故に、我はそこまでしか巻き戻すことが出来なかった』 星の記憶が拒否した? 意識集合体でさえ、星の記憶に逆らうことはできない? 『そうだ。だが、これから先はお前の意思の通りに変えることが出来る。 お前の望んだ時間まで戻せなかった代わりに、我の出来る限りのことをしよう』 思考が読まれたのか? 今がどういう状態かは知らないが、腹が立った。 だが、この時点からの世界を変えられるというなら、やってやろうじゃないか。 「どうしてお前は、俺にそこまでしてくれる?」 『私にとってお前たちは子供のようなものだ。我から生まれた、我と同じもの。 そしてまた、我さえ逆らうことのできない、星の記憶を変えた者。それはユリアにさえ叶わなかったことだ。 そのような者をむざむざ消滅させるには惜しいと思ったのだ』 ユリアに、さえ…? ユリアは預言を変えることを望んでいたのか? …では、第七番目の譜歌に込められていたのは。 『もう時間がない。我もこの世界の時間に準じることになるだろう』 「つまり、また封じられるということか?」 『そうだ。できることならば、もう一度開放して欲しい。あくまでお前の自由だが…そのために必要なものは与えておく。 それから、お前に私の音素の一部を組み込もう。 これで創世記時代の音機関はお前に反応するだろうし、 超振動も本物の聖なる焔の光のように扱えるようになる。譜歌も使えるだろう』 それだけあればある程度のことは出来る気がする。 アクゼリュスから始まって、自分に出来ること…。 『それから、最後に…』 ローレライの言葉を聞き届けて、白い世界は閉じた。 意識が浮上してきて、ぼんやりと目を開ける。 何回か、見たことのある天井。 辺りを見回した。 ここはティアの部屋だ。 そういえばどうなったのだったか。 …タルタロスで目覚めて、ユリアシティに着いて、アッシュが出てきて、それから? 起き上がると、体から何かが落ちた。 ミュウだ。 「ご主人様、起きたですの?」 目を覚ましていきなり甲高い声でそう告げた。 起き上がりにこの声はキツイ。 ああ、だけどこいつはまたずっと俺のそばにいたのか。 「ミュウ。俺はどうして倒れていた?」 「ご主人様は、アッシュさんと戦ってて…急に笑い出して、その後倒れたですの…」 そういえばそうだった。 そうして倒れたあとに、ローレライから通信が来たわけだ。 アッシュに意識を取られなかったのはそのせいか? 不安げに見上げてくるミュウに尋ねる。 「みんなはどうした」 その問いに、ミュウは言いにくそうに口ごもった。 この様子だと、もう外郭に戻ったようだ。 その方が都合がいい。 だが、そろそろ動き出さなければ。 「俺はこれから一人で行動する。お前も行きたいところに行けばいい」 そういうと、即座にミュウは飛びついてきた。 「ミュウはご主人様といるですの!絶対に離れないですの!」 そういって頬をすりよせる。 …やっぱり、こいつは、本当に。 「バカだな、お前。こんな主人に仕えるなんて」 「でも、ご主人様は優しいですの!ミュウは知ってるですの! ミュウはご主人様が大好きですの!だから一緒ですの!」 どうして、ここまで、いつも純粋でいられるのか。 「…ありがとう。なら一緒に来い」 お前に俺の生き方を見届けさせよう。 「はいですの!」 ミュウを肩に乗せて、ベッドから降りた。 その瞬間、ゴトンという音がする。 見れば、黒くて質量のある、それが、あった。 ローレライの鍵が。 「なるほど、開放に必要なもの、か」 これから超振動を使う場面が幾つかあるだろう。 その時にこれは頼りになる。 ありがたく貰っておこう。 部屋にあった荷物を拾って部屋を出た。 「ご主人様、ティアさんに挨拶していかないですの?」 「言っただろ、俺はこれから一人で行動する。お前以外の誰とも連れあうつもりはない」 だから、ティアが来る前に出た。 見つかる前に、さっさとユリアロードを通らなければならない。 多分もう来ないだろうユリアシティを一度眺めて、足早にユリアロードを目指した。 さあ、やるべきことは山積みだ。 最後の唄はまだ遠い (それが紡がれる頃、世界は何色か)