ユリアロードを抜け、アラミス湧水洞を抜ける。

あの時より大分腕が上がっているおかげで、苦戦はしなかった。

青い空を確認した時だった。

「ルーク!」

「ガイ…」

あの時、唯一俺を迎えに来たガイ。

お前には会いたくなかったのに。

間に合わなかった。

「良かった、会えて。お前を迎えに来たんだ」

俺の方に笑顔を見せる。

記憶の中で最後に見たガイの笑顔と、重なった。

あの時、告げられた約束。

手を握り締める。

引きずられるわけにはいかなかった。

だってもう自分は、選んでしまった。

もう、陽だまりは、要らないと。

「? お前、ティアはどうした?」

「あんな奴のことなんか知らない」

「…ルーク?!」

傍を通り過ぎようとする俺に、ガイが手を伸ばした。

「触るな」

その手を振り払って、距離をとった。

ガイはひたすら困惑の顔をしている。

「ルーク、俺はお前に会いに来たんだ。お前に言いたいことが…」

「興味ない。俺に近づくな」

「待ってくれ!お前を責めに来たんじゃない!ただ、俺は…!」

「ガイ!…にルーク?」

その声に、ガイが一瞬ひるんだ。

俺はそれが誰か分かっていたから、その瞬間に地を蹴って走り出した。

「っ!ルーク!ジェイド、放してくれ、ルークが!」

「ガイ、こっちも急を要する話なのです!」

「ルーク、ルーク!!いくな、ルーク!」

声を振り切るように、肩にいたミュウを抑えて、ただ走っていた。


ダアトの丘まで走って、一旦一息ついた。

我ながらよく走った。

「ご主人様、大丈夫ですの…?」

ミュウが心配そうに話しかけてきた。

「すぐに収まる。大丈夫だ」

「そっちじゃないですの、ご主人様…とっても痛そうな顔してるですの」

こいつは本当に人の心を察するのが上手すぎて困る。

それでも、自分に言い聞かせるように返した。

「大丈夫だ、大丈夫…」

息を落ち着かせるように目を閉じると、視界は暗くなった。


気分的にはかなり久しぶりな神託の盾本部は、記憶と全く変わっていなかった。

向かって右側から抜け道があることも。

入り口の見張りの兵士は一人だったから、巡礼の振りして気絶させた。

ここから行けばかなり近い。

事前に髪を切って短くし、動きやすくかつ様相を変えた。

その上でダアトで買った黒いマントを着て歩き、見つかったら即気絶させる。

気絶した奴を騒ぎにならないように見えづらいところに押し込んで、先に進む。

もっといるかと思った見張りは、意外と少なかった。

自分が言うのもなんだが、こんな少人数の警備でいいのか。


ナタリアとイオンは、俺の記憶が間違ってなければこの部屋だ。

見張りを気絶させて、ドアをノックする。

「だ、誰ですの?」

当たりだ。

ナタリアの足音が近づいてくる。

「開けますわよ?」

ナタリアが出てきた瞬間、手を引っ張ってドアを閉めた。

「ナタリア!?」

ドアの中からイオンの声がする。

「無礼者!」

ナタリアがそう叫んで、手を振り払う。

俺はそこで、第一譜歌を歌った。

なるべく、声がばれないように声色を変えたつもりだ。

倒れるナタリアを支えて、改めてドアを開けた。

そこには、不安そうに入り口を見ていたイオンがいた。

イオン、と口に出しそうになって慌てて止める。

まだイオンも生きている。

変えられる未来を、こんなところでつぶすわけにはいかない。

「ティア、じゃない…あなたは…?」

イオンが困惑したようにこちらを見る。

イオンには譜歌が聞こえてしまったらしい。

こればかりは仕方ない、とあたりを見回した。

巡回の兵士はいない。

出るなら今だ。

ナタリアを背負って、イオンを手招きした。

それでこっちに来るんだから、イオンも本当に甘い。

それを知っていてこの作戦を立てた俺がいえたことではないが。


ナタリアを背負って、イオンの手を引いて走る。

片手でナタリアを背負うのは、なかなかに大変だが、それももう一息だ。

結構深く入ったのか、見張りの兵たちはまだ気絶中だ。

起きたら騒ぎになるだろうが、その頃にはもう町の外だ。

来るときと同じ道を抜けて、ようやく教会の前に出る。

走ったせいか、イオンはかなり息絶え絶えだった。

少し、病弱なイオンに無理をさせてしまったか。

当たりに神託の盾兵がいないことを確認しようと、見回す。

「あーっ!イオン様!」

すると、教会の前にいたアニスが、イオンを見つけて駆け寄ってきた。

アニスが来たならもう大丈夫だ…今は。

それに、そろそろジェイド達も追いついてくるかもしれない。

ダアトの用は終わったし、さっさと退散しよう。

「待って…下さい…!あなた、は…まさか…!」

イオンが俺のマントを掴んで、苦しそうにそう告げた。

それが、前の記憶の、最後のイオンと重なった。

ごめん。

心の中だけでそう告げて、俺はその手を振り払って走った。


お前が命をかけて俺に残した道は、消えてしまった。


さいごの声が、耳から離れない
(それは前の記憶のものか、今の記憶のものか)