意識がはっきりした時、そこには白い花畑が広がっていた。

見覚えのありすぎる、セレニアの花。

なんで自分はこんなところにいるのか。

空は夜空、満天の星。

風が抜けていく方を見ると、そこにありえないものを見た。

白い爪のようなもので囲まれた浮かぶ建物。

新生ホド……エルドラントだ。

何でエルドラントがここにある。

だって俺は今、ローレライによって巻き戻された世界に…。

「トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ」

不意に、懐かしすぎる、歌声が聞こえた。

何回か自分でも使ったけれど、でもやっぱりこの歌は、彼女の声が一番似合う。

「クロア リュオ トゥエ ズェ リュオ レイ ネウ レイ ズェ」

何度も守られて、何度も救ってくれた優しい声。

守りたいと、思った声。

「ヴァ レイ ズェ トゥエ ネウ ズェ リュオ ズェ クロア」

遠い昔に生きた彼女が、奏でた音はどんなものだったのだろうか。

この歌には、込められた思いがたくさんある。

「リュオ レイ クロア リュオ ズェ レイ ヴァ ズェ レイ」

ありえないと心では思いつつも、足はそちらに向いた。

かつて、自分の隣には誰がいた?

「ヴァ ネウ ヴァ レイ ヴァ ネウ ヴァ ズェ レイ」

求めて、戦って、探して、守って……生きた。

生きて、そして終わりを迎えたはずだった。

「クロア リュオ クロア ネウ ズェ レイ クロア リュオ ズェ レイ ヴァ」

なら、なぜ自分はここにいる。

どうしてこの、歌声が聞こえる。

「レイ ヴァ ネウ クロア トゥエ レイ レイ」

歌が、止んだ。

そこには、俺の世界があった。

「どうして…ここに?」

世界が、俺に語りかけてきた。

彼女が、俺という存在を認識して、確かに俺を見た。

嬉しくて、すごく嬉しくて、でもうまく笑えなくて。

「ここなら、ホドを見渡せるからな」

でもなぜかすらすらと、言うべきことが口に出てくる。

そんなことは知らないと、言いたいのに。

だって気がついたら、ここにいた。

なぜ、自分はここにいる?

「それに……」

ああ、あったじゃないか。

最後に、俺が世界に与えられたもの。

俺をここに繋ぎ止める糸。

「約束、したからな」

必ず、帰ると。

守るつもりはなかった。

守れると思っていなかった。

果たされるはずが、なかった。

でも、よくわからない言葉を言いながら、こちらへ駆けてくる、みんなの声が。

抱きしめて、撫でてくれるその体温が。

確かに自分がここにいると、教えてくれた。

抱きしめ返して、俺もよくわからない言葉を言って。

最後に、伝え損ねた言葉を口にした。

「大好きだ、みんな」

俺の世界たち。

俺がここに生きていることを教えてくれる、仲間たち。

温かくて、冷たくて、でも優しいこの世界が大好きだ。

大切で、掛け替えのない仲間たちが大好きだ。


あたたかい温もりを見失わないように、手に、力をこめた。


消された世界の中で
(なんて幸せで、なんて残酷な)