「ルーク!起きても大丈夫なのかい?」 「ご主人様!」 甲板に上がると、ノワールに声をかけられ、ミュウに飛びつかれた。 「ああ、もう大分回復した。臨機応変な対応、ありがとうノワール」 「礼もいいけどね…自分の体は一つきりなんだから、大事にしなよ」 ため息混じりにそういわれた。 「あの子が気絶したアンタを連れてきた時はホント、驚いたよ…」 「そういやあの子はどうしたんだ?何やらすごい声がしたけれど…」 あえてそう表現したのか、ヨークなりの配慮なのか。 ミュウをなでながら、とりあえずごまかしておいた。 「色々あって、寝てる。起こさないでやってくれよ」 「ノワール様!ダアト港が見えてきました!」 「もうダアトか」 遠くにダアト港の形が見える。 「アンタ、随分気を失ってたんだよ。 それで、依頼どおりダアトには着いたけど、どうするんだい、依頼主様?」 気を失っていたのが移動の間でよかった。 ただでさえ時間がないのだから。 「俺はダアトに行く。少ししたらすぐに戻ってくるから、ここで出港準備をして待っていてくれ」 「やれやれ、忙しいでゲスね」 「次はどこに行くんだい?」 「バチカルだ。頼むぞ。俺は一回部屋に戻って準備してくる」 「ミュウも行くですのー!」 ミュウが飛び跳ねながらついてくる。 「来るのはいいが、シンクを起こさないように静かにしろよ」 甲板をおりかけたが、ノワールの声に一度振り向いた。 「あの仮面の子…シンクだったかい?彼はどうするんだい?」 「ダアトに降ろしておいてくれ。あいつは神託の盾騎士団の六神将だから、多分誰かが拾ってくれるだろ」 あんな子がか、という声を背に受けて、中に入った。 準備を万端に終え、船を降りる。 「じゃあ、アタイらはここにいるからね。また倒れて戻ってくるなんてことは止めてくれよ」 「大丈夫だ。行って来る。ミュウ、行くぞ」 「はいですの!」 道具袋にミュウを入れ、ダアトに向かって走り出した。 ダアトに着くと、すでに騒ぎになっていた。 フードを被り直し、人の隙間を縫いながら教会に向かう。 どうやら既にナタリアたちは捕まったようだ。 六神将もバチカルなどに向かったのだろう、見当たらない。 急いで、どこかに捕まっているギンジを探さねばならない。 「…イオン」 「あなたは…ルーク!」 イオンの私室に来ると、落ち着きなくイオンが部屋中を歩き回っていた。 やはり、捕まった彼らが気になるのだ。 「ルーク、どこにいたのですか!ティアたちが…」 「知っている。俺はこれからバチカルに向かう。 お前が渡そうと思っていた禁書を俺にくれ。ついでに渡しておく」 「! ルーク、あなた…」 さすがに、これだけ立て続けにいうと驚くか。 俺は禁書のことなど知らないはずだし。 「…お願いします。必ずティアたちを助けて下さいね」 深く突っ込まれなかったことに、感謝しよう。 禁書を受け取りながら、注意をしておく。 「俺のことは言うなよ。俺は名乗らないから」 「ルーク、どうして…?」 イオンの質問には答えず、逆に聞き返した。 「アルビオールのパイロットがどこに捕まっているか知らないか?」 「多分、下層の方だとは思いますが…」 「それだけ聞ければ十分だ。じゃあな、イオン」 一方的に会話を打ち切って、踵を返した。 「待って下さい、ルーク!」 イオンの制止を振り払って、部屋を出る。 そういえば、ついこの前に、同じようにイオンの制止を振り切ったばかりだ。 不敬罪とやらに引っかかるかもしれないが、今さらだ。 もう、俺にイオンの隣に立つ資格はない。 ギンジを見つけると、意外に元気そうで、すぐに連れ出して外に出た。 ダアト港に向かいながら、着いたらすぐに出航準備をして欲しいと告げる。 「あ、でも飛行譜石は取られてしまって…」 ディストに奪われたんだろう。 もちろん、それも、後でとりに行くことになるのも予想済み。 「知ってます。それは後であちら側でどうにかすることになるでしょう。 ギンジさんは、水上飛行でベルケンドに向かってください。あとでティアたちが向かうと思います」 「はー、いつも思いますが、ルークさんてすごいですねー」 「は?」 緊迫した状況で、いきなり言われた言葉に、俺は思わず呆けた声を出した。 「いつも先回りして先手を打ってるんですから。 時々、シェリダンの妹に状況を報告しているんですが、あいつ、すっかりルークさんに憧れてましたよ」 シェリダンの妹…間違いなくノエルだ。 彼女が、俺に、憧れる? そんなバカな。 「冗談は止めてください。ああ、ダアト港が見えてきましたよ」 「お帰り、ルーク。元気そうで何より。シンクは言われた通り降ろしておいたよ。 全く起きる気配がないけどね」 港に着くと、ノワールを筆頭に漆黒の翼が出迎えてくれた。 「もうしばらく起きないだろうな。それじゃ、ギンジさん。さっき言った通りに頼みます」 「分かりました」 禁書を渡し、ギンジさんと別れる。 次はいつ会うことになるだろうか。 「ノワール、俺達も出よう。準備はいいな?」 「いつでも行けるよ。野郎共、出航だよ!」 ノワールが号令をかける。 あちこちで声があがった。 船は、バチカルに向かう。 間に合ってくれと、ただただ願った。 砂時計はひっくり返された (タイムリミットは、彼女の死と同時)