シンクを加えて、先に進む。 「で、向かう先はパッセージリングでいいの?」 「ああ」 セレニアの花畑を出て、パッセージリングのあった方に向かう。 途中出てきた魔物は、シンクと共に片手間に片付けていった。 「それで、あんたは何のためにパッセージリングを回ってるのさ」 「…お前は、ヴァンの計画についてどこまで知ってる?」 「あんたはどこまで知ってるのさ」 聞いたら、聞き返された。 この場合は俺が答えないと答えてくれないか。 「…預言をオリジナルもろ共滅ぼして、レプリカの世界を作ろうとしていることは知っている」 「それってヴァンの最終目標じゃん。それじゃ、計画はだだ漏れ?」 「漏れたわけじゃない。俺が知っているだけだ」 案の定、シンクは訝しげな顔をしている。 まあ、当たり前か。 …それどころではなくなりそうだが。 「ねえ、それってどういう…」 「シンク、伏せろ!」 「へ!?」 シンクの頭を掴んで地面すれすれまで落とす。 上を大きくて早い何かが通り過ぎた。 「何!?」 「ユニセロス!」 そこには、前にもここであった、聖獣のユニセロスがいた。 やはり、俺の中の瘴気に反応したのだろう。 「こいつ、やる気満々?」 構えたシンクを手で制した。 「…ユニセロス、落ち着いてくれ。瘴気を嫌うのは分かるが、今はこれしか方法がないんだ。 用が済んだらすぐに立ち去るから、どうか見逃して欲しい」 ユニセロスが一声鳴いた。 「ミュウ、訳してくれ」 肩にいたミュウにそう命令すると、嬉しそうに返事をした。 「はいですの!ユニセロスさんは、『…分かった、われはしばしここを離れている』って言ったですの!」 どうやらそのまま訳してくれたらしい。 「感謝する」 そう言って頭を下げると、ユニセロスはそのまま飛び去った。 戦闘にならなくて良かった。 「ねえ、どこに瘴気があるのさ。まだ魔界に落ちてもいないのに」 どうやら外殻大地が崩落することは知っているらしい。 「…パッセージリング」 嘘は言っていない。 パッセージリングから俺に瘴気に汚染された第七音素が流れ出ているのだから。 「? パッセージリングに瘴気があるの?何で?」 「行けば分かる。ユニセロスに約束もしたことだし、早く行くぞ」 入り口は、超振動で横穴を開けて入った。 「…ずるがしこいね」 「これしか方法がないだろ。俺はダアト式譜術を使えないんだから」 「僕が使えるのは知ってるんだろ?」 「でも、無理に高等のを使うと体に負担がかかるだろう」 シンクは導師のレプリカだが、譜術方面において劣化したレプリカだ。 イオンとは違って使ってもそうそう疲れはしないが、さすがに高レベルの譜術となると イオン以上の負担がかかるだろう。 それよりは俺の超振動で横穴を開けた方がいい。 シンクは何か言いたげだったが、何も言わなかった。 途中見つけた第四音素の結晶で、ミュウのソーサラーリングに新たな譜を刻んで先に進む。 ここには魔物はほとんど住み着いていないし、すぐに奥に着いた。 「あった、パッセージリングだ」 近づくと、操作盤が反応して開く。 ベルケンドで貰った薬のおかげか、今までみたいな体調不良は感じない。 これは、薬が切れないように注意しなければ。 二つ目であれだけだったのだから、三つ以上となるとどうなるか分からない。 それを、ティアは堪えていたのだが。 さて、とっとと済ませてしまおう。 「で、何をするつもり?」 「超振動で無理矢理命令を書き込む」 手をかかげて、記憶をなぞるように命令を書き込んだ。 「するとどうなるのさ」 「パッセージリングに限界が来て大地が崩落する時に、その速度を緩めることができる」 「…つまり、たくさんの人が助かるってこと?」 「そういうことだ」 命令を書き込み終えて、手を下ろす。 帰りも超振動を使うから、少しでも回復しておかねばならない。 作業を終えて振り向くと、シンクがため息をついていた。 「呆れた。偽善だね。そんな大義名分のためにこんな面倒くさいことをしてるのか」 「?」 シンクが何を言いたいのか、分からない。 首を傾げると、察してくれたのか続きを言ってくれた。 「アクゼリュスでの大量殺人の贖罪のつもりなんだろ? そんなの、ただの自己満足だ。死んだ人間は帰って来ない」 シンクは2年しか生きていないのに、やたらそういうところは聡い。 そう、これはただの自己満足だ。 助けられる“たくさんの人”の中に、“彼ら”を含めての、自己満足。 死んだ人間が特殊な場合をおいて、帰って来られないことも十分知っている。 知りすぎるほど、人の死をたくさん見た。 「ねえ、何か言ってみなよ」 シンクも含めて。 だからこれは自己満足なのだ。 血塗れたこの手で成せる限りのことをすると決めた。 例えその先で、さらにこの身が血で塗れようとも。 「ああ、その通りだ」 シンクの体が、少し強張った気がした。 「所詮、人間のすることなんてほとんどが自己満足だ。そうだろ?」 そんなこと、お前だって知っているだろうに。 返事は、返ってこなかった。 断罪の刃は喉に突きつけられた (それに返事を返すことの出来る人は、もういない)