タタル渓谷のセフィロトを出て、超振動で開けた穴を塞いだ。

少し夕暮れ近くなっていたから、足早に外に出る。

シンクはその間何も喋らなかった。


漆黒の翼と別れた場所に戻ると、彼らは既に戻っていた。

「ルーク!…とシンク、だったかい?」

「増えてるね」

「シンクも一緒に行く事になった。もうすぐ日が暮れる。適当なところで停泊してくれ」

「分かった」

状況説明を一気にすませて、部屋に戻る。

シンクは一緒に来ないで甲板に残っていた。

思うところがあるのかもしれないし、しばらく一人にしておこう。


ベッドに腰掛ける。

「ご主人様、疲れたですの?」

肩に乗せていたミュウが飛び降りて、膝の上で飛び跳ねた。

「少し、な。お前も疲れただろ」

このところしばらく強行軍だ。

ほとんど俺の肩の上か道具袋の中だが、それでも疲れるだろう。

「ミュウは大丈夫ですの!疲れてないですの!」

嘘つけ。

「…ミュウは、今の俺をどう思う?」

「ミュ?」

「思った通り、ありのまま答えればいい」

そういうと、ミュウはしばらく唸りながらベッドの上を転がった。

なんだか和ましくて、それをじっと眺める。

するとミュウが急に起き出して飛び跳ねた。

「嬉しいですの!」

「は?」

「ご主人様が、笑ったですの!」

…俺が、笑った?

「ご主人様、いっつも辛そうで悲しそうで、ミュウも悲しいですの。

笑ってても、なんだかちっとも嬉しくなさそうですの。でも、今、ご主人様嬉しそうに笑ったですの!

だからミュウも嬉しいですの!」

野生の本能か何かしれないが、こいつは人の機敏にやたら聡い。

飛び跳ねて抱きついてきたミュウを撫でる。

「そうか、ありがとう、ミュウ」

優しい青色の獣。

どんな時だって主人を見捨てない忠義の生き物。

共にいることを一番に認めた、俺の相棒。

共にいることは、こいつにとって一番残酷かもしれない。

また、俺の自己満足だ。

俺が共にいたいと望んでいるだけ。

自己満足ばかりで、本当に勝手な人間だ。

心の中で、ごめんと謝る。


そして、毛並みを撫でながらもう一度礼を言った。


終焉の影
(ありがとう、どうかさいごまで、一緒に)