パッセージリング起動は成功、ついでにソーサラーリングへの譜の書き加えも終了。

やるべきことを終えて、ダアト港に戻った。

確かこの後、向こうメンバーが、ライナーから飛行譜石を取り戻すためにダアトに来るんだったな。

さっさと立ち去った方がいいか。

「戻った、ノワール」

「お帰り。今回も無事に戻ったね」

「そう毎回毎回倒れるわけじゃない」

倒れてただろ、といわれちょっと言葉に詰まった。

「予定変更だ。シェリダンの前にベルケンドに行く」

ちょっと笑った後、ノワールは了承してくれた。

確実に、先に進んでいる。

少しずつ変わり始めている未来の中で、それだけは確かだった。


ベルケンドの研究所で、シュウ先生を訪ねる。

いつものように、医務室にいてくれた。

「久しぶりだね、ルーク、でいいのかい?」

「ええ、構いません」

それしか名乗れる名前を持っていないし。

「体の調子はどうだ。無茶はしてないか?」

そこまで聞いて、軽くはっとした。

「シンク、お前は奥に行ってろ」

「何でさ。いまさらアンタのどんな状況を聞いたって驚かないよ」

どうやら動く気はないようだ。

俺が呼んだシンクの名前に、シュウ先生が反応する。

「シンク……?って神託の盾騎士団の?」

「元ね。今は色々諸事情でルークに同行中」

「知ってるんですか?」

ヴァン師匠を知っていたのだから、シンクを知っていても不思議ではないと思うが。

「この前まで、神託の盾騎士団の兵士達がいただろう。

その時、シンクという名の参謀総長が行方不明だと話しているのを聞いた」

「行方不明扱いか。まあ間違ってないけど」

姿を見せないようにしている以上、確かに間違ってはいない。

と、本題からずれた。

「本当にいいんだな?」

「だから今更」

シンクはため息をついた。

どうやらもう俺の無茶加減には慣れてしまったらしい。

「じゃあ、シュウ先生、よろしくお願いします」


検査の結果は、当然黒だった。

あれからずっとパッセージリングを回って瘴気を吸収し続けたのだから、当たり前だ。

「あと何ヶ月持ちます?」

シュウ先生は伝えるのもためらうように切り出す。

「少なくとも、あと一年も持たないだろうね半年がせいぜいだろう」

医務室にかかっていたカレンダーを見て、暦を計算する。

「それなら大丈夫です。治すあてがあるんで」

「治すあてがあるだと?一体、どんな方法で?」

医者としては、確かに限りなく絶望的な状況だろう。

だが、俺には切り札がある。

“未来”という、最大で凶悪な切り札が。

「ちょっと荒療治なので、言えません。でも、とりあえず瘴気については大丈夫です。

来年の、ノームリデーカンまでもてば」

正確に言うと、その月に起こる、あることを利用すれば。

「よくわからないが、とりあえず信じておこう。

新しい薬はだしておく。だが、重ねて言うが無理は禁物だぞ」

「ありがとうございます」

薬を貰って、礼をして、医務室を出た。


「驚かないんだな」

俺の体が瘴気まみれで、余命がいくばくもないこと。

「言っただろ、今更どうだって驚かないって」

「にしても、普通はもうちょっと動じるだろう」

「それに、アンタ言ったじゃない。治すあてがあるって。あの言葉は嘘だとは思えない。

だとすれば、アンタの目指す死因は別にある。死なない病気を心配しても意味が無い」

シンクが言っていることは限りなく正論だ。

だがなぜかこう、釈然としないものがある。

「それで、次は何しにシェリダンに行くの?」

「シェリダンで、地核静止のための作戦が始まる。それに妨害が入らないように、見張りに行くんだ」

「……なるほど、ヴァンが困りそうなことだもんね」

シンクも納得した。

今回はスピノザによる密告はないが、万が一ということもある。

今度は絶対、イエモンさんたちは死なせない。

ノエルやギンジさんたちを悲しませたくない。

シェリダンの悲劇なんて、起こさせない。


薬を持って、ベルケンドを出てシェリダンへ。

「この後は少しのんびりできる。お前達も休んでくれよ」

「あんたもね」

シェリダン港へノワールたちを置いて、シンクとミュウと共にシェリダンへ。

こっそり窺ってみたけど、やっぱりまだあいつらは来ていないみたいだ。

今頃、ユリアシティで条約を結んでいる頃ではないだろうか。

「シンク、作戦まではまだ時間がある。しばらくはここで休憩だ。

いつあいつらがやってくるかはわからないから、行動は慎重にな」

「あいつらって、アッシュ?」

「そうだ」

「ふーん、分かったよ」

何かあるときは呼んでよ、とシンクは町へ出た。

まあ、シンクなら多分大丈夫だろう。

六神将の中でも諜報が得意だったと聞いていたから、身を隠すのは上手いはずだ。

ここのところ動き回りっぱなしだったし、俺も休もう。

宿を取って、荷物を脇に置き、横になる。

「ご主人様、眠るんですの?」

道具袋から出したミュウが、顔を覗き込む。

「ああ、お前も少し休め」

「はいですの!」

もぞもぞと布団に潜り込むのを見て苦笑しながら、目を閉じた。


地核静止作戦は、近い。


歪んだ世界に思いを馳せて
(世界の理から外れた、旅人は何処へ)