日が差した気がして、目を覚ます。 もぞ、と起き上がると、窓から外を確認した。 オレンジ色の夕日が斜めに部屋に入ってきている。 「夕方か、結構寝たな」 まだ隣で寝ているミュウを起こさないように、伸びをする。 そういえば、陸地でのんびり寝たのは久しぶりかもしれない。 シンクはまだ戻ってきていないようだ。 寝る前に傍においたローレライの鍵を手に取る。 剣に宝珠がはめられた、鍵の完成形。 本当なら、これを使う機会が無い方がいい。 でも……。 「何だ、起きてたの」 部屋にシンクが入ってきた。 「おはよう、シンク。何か動きはあったか?」 「何も。アッシュ達も来てないし、神託の盾もいない。至って平和な一日だったよ」 そう言って、隣のベッドに座る。 「ご飯、食べてきたら?僕はもう食べてきたよ」 「そうだな。ミュウ、起きろ。ご飯だ」 「みゅううう〜」 まだ半目のミュウを掴み、ローレライの鍵を腰に差して立ち上がった。 部屋から出ようという時に、シンクに声をかけられる。 「ルーク、何でアンタ二刀流でもないのに、剣を二本持ってるの?」 右腰に愛剣、左腰にローレライの鍵。 確かに普通なら、二刀流でもないのに、二本持っているのはおかしいだろう。 だけど。 「この剣は、役割が違うから」 そう言って、部屋を出る。 後ろからシンクの戸惑いの声が聞こえていた。 食事を取っていると、かぶりつくように食べていたミュウの耳がぴくりと動いた。 「ご主人様、ティアさんたちの声がするですの!」 聞き終わる前に、バッと片付けて、食堂を出た。 うるさくない程度に廊下を急いで歩き、部屋に入る。 駆け込むように入ってきた俺を見て、シンクが軽く目を見開いた。 「どうしたのさ」 「あいつらが来た。時間から考えると、作戦実行は明日だろうな。それまで鉢合わせないようにしないと」 あいつら、の時点でシンクは事情が分かったらしい。 こちらへやってきて、壁に耳を寄せている。 「そんなことしなくても、ミュウがいるぞ」 「僕は自分の耳で聞いたこと以外は信じない」 いかにもシンクらしい。 声が聞こえるとまずいから、ミュウをつれて部屋の奥に引っ込んだ。 「ミュウ、静かに、静かに話せよ。会話が聞こえるか?」 耳をぴくぴくと動かして、はいですの、と返事をした。 「何の話をしている?大体でいい」 ミュウは耳を澄ませた。 「はあ、疲れた〜もうアニスちゃんへとへとだよ〜」 「バチカルからマルクト、ダアトに行ってケセドニア、そしてユリアシティに行って条約締結。 飛びっぱなしだな」 「でも、無事和平が成って何よりでしたわ」 「ええ。これで後は地核停止作戦を成功させて、外郭を下ろすだけです」 「兄さんの横槍が入らなければいいのだけど……」 「確かに、ヴァンはここのところ静かすぎるな」 「うまくいくといいのですが…」 ミュウはしばらく集中していたが、やがてこっそりと言った。 「皆さん、疲れてるですの。今日は休んで、明日出発するって言ってるですの」 そりゃそうだろうな。 「神託の盾については何か?」 「静か過ぎるって」 思えば、この頃の師匠たちは、どこにいたのだったか。 確か、ベルケンドから撤退して、その後ワイヨン鏡窟で会ったんだから……ワイヨン鏡窟か。 「めぼしい会話は終わったみたいだね」 シンクも立ち上がってこちらへやってきた。 「ああ。ほぼ俺の予想通りで間違いないらしい」 「最近、あんたは未来でも見えてるんじゃないかって思うよ」 ほぼ間違っていない。 未来が見えているというより、未来を見てきた、が一番正しいが。 「それで、あいつらはどこに向かった?」 休む、というからこちらに向かってくると思っていたのだが、そんな気配はしない。 「町の北の方に向かったみたいだね。こっちには来ないみたいだ」 「北っていうと……工房があるところか。操縦士の家で世話になるのかもしれないな」 頭にシェリダンの地形を思い浮かべる。 ここが宿で、南に集会所、北にはアルビオールを作った工房があったはずだ。 「操縦士?」 「アルビオールの操縦士の兄妹がいるんだ」 ふうん、と興味なさげに呟いてから、シンクは会話を終わらせた。 「明日は、何が起こるか分からない。万全を期して、俺はもう一回寝るよ」 もうだいぶ道筋は未来と変わってきている。 何が起こっても不思議じゃない。 だが俺は、何が起こっても対処しなくてはならないのだ。 スピノザを事前捕獲していても、師匠がどこからか聞きつけて妨害する可能性も零じゃない。 可能性がある以上、用心すべきだ。 そして、今俺がすべきことは、何かのために、休むこと。 「おやすみ、シンク」 「……おやすみ」 ぎこちなくだが返事を返したシンクに満足して、俺は眠りについた。 さっきまで寝ていたのだが、意外にも、簡単に意識は闇に沈んでいく。 微かに、頭に音が響いた。 開けられる扉の分からない鍵 (可能性、それは不安定で不確かだけど、最大の武器でもある)