とくん、と音が聞こえる。

これは何の音だろう。

誰かに抱かれているような、温かくて優しい感覚。

いつだったろう、こんな感じ、前にも感じたことがある。

『ルーク』

聞き覚えのある声に、名を呼ばれる。

ああ、そうか、ここは。

ゆっくりと目を開けると、真っ白な世界が広がっていた。

「よう、ローレライ。調子はどうだ」

何の輪郭も無い、ただただ白い場所だけれど、そいつが“そこ”にいると、何となく分かった。

『相変わらず、地核が震えて不快な日々だ』

「そういうな。もう少しで地上で地核を静止するための作戦が始まる。そうすれば少しは楽になるだろう」

ヴァンの次の手によっては、再び振動が始まりかねないのだけれど。

『……もう、随分と違った道筋を歩んでいるな』

「当たり前だ。そうなるように俺は動いているんだから」

現時点だけでも、未来との相違は数え切れない。

アッシュがパーティに入っているし、ティアには瘴気がない。

スピノザは密告していないし、漆黒の翼と一緒にいるのは自分だ。

戦争も起きていない上に、和平も成立して、秘預言から結構離れている。

おまけにシンクが共にいるというイレギュラー。

そして、まだ変えたいことがたくさんあるのだ。

立ち止まったり、迷っている時間は無い。

『今一度聞く。お前は、それでいいのだな?』

呆れとか、戸惑いとかそんな感情の入り混じったような声。

人間かよ、と突っ込みたい気持ちを抑えて、小さな笑みを浮かべて。

「俺はそれを望んだんだ」

笑っていえるくらいには、余裕がでてきた。

脳裏に走った緑色に、また小さく笑う。

「お前の最後の言葉も覚えている。だからこそ、俺はこのやり方を選んだ」

無茶な計画を立てて、世界中を飛び回って。

そして行き着く先は、きっと俺が望む場所で。

『……我は、お前の好きにするよう言った。ならば最期まで、お前の選んだ道を見届けるとしよう。

それが、時間の巻き戻しを起こした、我の責任だ』

なんだかシンクみたいなことを言ってるな、とまた笑う。

『ああ、そうだ』

俺が笑ったのを(多分)見て、ローレライは思い出したように言った。

『できる事ならば、最期は笑顔で』

きっとそれがいい、とローレライも軽く笑った。

そうだな、ともう言葉にならない言葉を返して。

ゆっくりと、引き込まれるように白い世界が閉じていく。

あの花のように、穢れの無い、真っ白な。

ああ、まだ俺はそこには行かない、いけないよ。

けれど待っていて。


いつか、きっと。


旅路の果てを、垣間見る
(何もかもを終えた、最高の)