目を覚ますと、夜明けだった。

まだ日は昇りきっていない、けれど空は明るくなり始めている。

起き上がって見回すと、隣のベッドでシンクが寝ている。

近づけば多分反射的に起きるのだろうけど、その寝顔がひどく幼くて。

枕元ではミュウもまだ夢の中で。

自分の意識だけが今ここにあることに、少しだけ笑った。


もう寝る気はなく、ぼんやりと空を見ていると、気配が動いた。

「おはよう、シンク」

「……おはよ」

ぎこちない、というよりは不服そうな返事だった。

苦笑して振り向くと、そこにはすごい寝癖のシンクがいて。

見た光景に、苦笑というより噴き出しそうになった。

「お前、すごい髪だぞ?」

「分かってるよっ」

不機嫌そうに(多分髪を整えに)部屋を出て行く。

ああ、もう、何てことだ、全く。

結局はこうなる運命だったのかもしれないな。

預言とか、未来とか、そんなものは関係なく、ただ。

少し思考をめぐらせて、気合を入れて立ち上がった。

「よし、やるか」

今日は地核作戦当日。


シンクと軽く朝食をとって、裏口から宿を出た。

集会所も、工房もこっそり覗ける位置(建物の屋根の上)を確保して、みんなが動き出すのを待つ。

日が高くなり始めた頃、人の動きが多くなってきた時刻に、

みんなが工房を出て集会所に入っていくのが見えた。

中で、作戦の概要の説明を受けていることだろう。

始めてしまえば、とにかく時間が無い。

急いで港に向かうはずだ。

「シンク、あいつらが町を出たら、俺はそれを追いかける。お前は町で待機していてくれないか」

二手に分かれた方が、何かあった時に効率がいい。

シンクはしばらく渋っていたが、必ず町へ戻ることを条件に納得してくれた。

雑談を終えると、下が少し騒がしくなる。

「行きましょう、今は一分一秒が惜しいわ」

「タルタロスは港だったな?急ごうぜ」

ティアとガイだ。

後からぞろぞろと続いて、みんなで町を出て行く。

「じゃ、シンク、また後でな」

やっぱり不満げなシンクをそこに残して、俺も町を出る。

見つからないように若干遠回り経路を通って、先回りした。

向こうにはイオンがいるから、どうしてもそこまで速くは動けないのだ。

港へつくと、不穏な気配は全く無い。

一安心して、近くの荷物に身を潜める。

少しして、みんながやってきて、ばたばたとタルタロスに乗り込んだ。

「行ってらっしゃい」

「俺達の自信作、無駄にするんじゃないぞい!」

見送りに来たヘンケンさんとキャシーさんに見送られて、タルタロスが出港する。

タルタロスが港から離れた瞬間、物々しい音を聞いて、すぐさま俺はそちらに目を向けた。

「くっ行かれたか」

「追いかけますか?」

「……そうだな、何人かの兵を送り込むだけでも、障害にはなるだろう。

タルタロスは陸艦、海上ではそう速くは動けまい」

その言葉を聞いた瞬間、俺は飛び出した。

「そうはさせるか」

俺の前には、師匠とリグレット、何人かの兵が立っている。

師匠は僅かに目を見開いたが、そこまで動揺することなく、俺を睨む。

「……レプリカルーク、なぜお前がここにいる」

「師匠がそれを聞いたって、分からないでしょう」

睨み返して、右腰、つまり愛剣を手に取る。

「ここから先は行かせません」


どうやって師匠がこのことを知ったのかは知らない。

だが、俺にはここで師匠を止める義務がある。

構えた俺に、しかし師匠は剣を構えなかった。

「閣下、どういたします」

「下らんな。ここはリグレット、お前に任せる。私は兵に命を出しに行く」

その言葉にすぐさまリグレットは譜銃を構え、師匠は背を向けた。

このままでは師匠が行ってしまう。

「させるかっ!」

手に全神経を集中させて、超振動を発動させる。

師匠の前の地面をがっぽりと抉った。

「それ以上動けば、次は四肢の一つや二つ、飲み込みますよ」

この辺りの毒はジェイド仕込みかもしれない。

意外と感化されていた自分に、内心で小さく笑う。

師匠は驚いたように、俺が抉った地面を見ていた。

「なぜ、レプリカのお前がここまで超振動を使える」

「先ほどと同じことを繰り返します。師匠がそれを聞いたって、分からないでしょう」

精一杯の殺気を込めて睨む。

だが俺の睨みはヴァンに一笑されてしまった。

「ならば、なぜここで我らを殺さない?

これだけ的確に抉れるのなら、私に絞って力を振るうこともできるだろう」

その笑みは、多分俺が師匠を殺すことをためらっていると思ったのだろう。

覚悟は、決めた時にとうにした。

俺の今の制御なら、多分それもなせる。

けど。

「今はまだ、その時ではないからです」

俺の目的のためには、この先に進んで貰う必要がある。

ここで師匠を逃せば、また意味の無い血が流れるだろうことも、分かっていて。

それでも。

「大人しくしてもらいましょうか、師匠、リグレット」


この手を、下げることはできない。


最初で最後で懐かしくて
(誰よりも尊敬していた、未だ遠い過去の面影を残すあなたを)