俺の意図がつかめないのか、師匠たちは困惑していたが、

ばらばらとやってきた神託の盾兵士を見て、俺に背を向けた。

「行くぞ、リグレット」

「閣下、よろしいので?」

リグレットは銃を構えたまま問う。

「構わん。まだ打つ手はある」

おそらく、アブソーブゲートを操作して、プラネットストームを逆流させることを指しているんだろう。

そうすれば、地核の振動が激しくなり、タルタロスでは振動を中和しきれなくなる。

でも、その前にきっとみんなが師匠を止めてくれる。

俺がすべきことも、とうに決めていた。

立ち去る師匠たちを最後まで見送り、一息吐く。

タルタロスはとうに見えない。

あとは地核作戦の成功を祈るのみだ。

「坊や、誰だい?」

不意に、声をかけられる。

振り向くと、ヘンケンさんとキャシーさんがいた。

無事でよかったと安心してから、何て答えようか迷う。

バカ正直に名前を名乗るわけにも行かないし、とすこし考えてからこう言った。

「ギンジさんの知り合いです」

嘘は言ってない。

「イエモンの孫のか?」

「ええ。彼に飛行譜石を渡したのは俺です。ちょっと様子見に来たら、なにやら不穏な空気だったので……」

何とか肝心なことは言わずにごまかそうと頑張ってみる。

だが、彼らは怪しむ目で俺を見ていた。

「連れをシェリダンに待たせているので、失礼します!」

「あ、ちょっと、あんた!」

脚力に任せて全力疾走。

彼らは老人だからと言って侮れない。

このまま会話していると、ボロを出しそうな気がする。

その前に撤退だ。


シェリダンでは、何も騒ぎは起きておらず、住民達は普通に生活していた。

この分だと、イエモンさんたちも無事だろう。

さて、シンクを探さないと。

「ここだよ」

辺りを見回した途端、上から声が降ってきた。

見上げれば、別れたところと変わらない、屋根の上にシンクがいる。

俺を確認して、身軽に降りてきたシンクは、肩を軽く回した。

「何も無かったよ。暇なくらいだった」

「それは何よりだ」

「あいつらは?」

「無事に出港した。多分、師匠の邪魔も入らないと思う」

師匠、の言葉にシンクが僅かに顔をしかめた気がした。

「ヴァンに会ったの?」

「会った。会っただけだけど。にらみ合いして終わり」

嘘ではないと思ったのか、シンクはもう興味ないとばかりに話題を移した。

「で、次はどこに行くの?」

「シルバーナ大陸のロニール雪山。あそこのパッセージリングを操作して、

奥に用事があるから、さらに先に進む」

ラジエイトゲートを除けば、いよいよパッセージリング回りも最後になる。

何だかんだでそれなりに長かった。

「何の用事?」

「……まあ、先を考えての準備」

「何それ」

「行けば分かるよ」

実際、行って分かるものでもないと思うが。

遺跡を抜けて山の反対側に出て、練成飛譜石を取りに行くのだ。

これがあると、アルビオールの行動範囲がぐっと増える。

幾つか行かなければならないところもあるし、あれは必要だ。

「今回はゆっくり休んだし、行くか」

「はいはい」


シェリダンを出て、さっきまでいたシェリダン港へ。

ヘンケンさんとキャシーさんはいなくなっていた。

外れに漆黒の翼の船を発見して、近づく。

「ああ、ルークか」

「シンクもいるでゲスね」

甲板にいたヨークとウルシーがこちらに気づいて、軽く手を振った。

手を軽く上げて応えて、ステップを昇る。

「戻った。出港を頼む」

「ノワール様に伝えてくるよ。アンタらは船室に行ってるといい」

「分かった」

シンクと別れて船室に入った。

ベッドに倒れこんで、天井を眺める。

なんだか静かな気がして、あ、と声をあげる。

道具袋から、黙らせっぱなしだったミュウを取り出した。

「もう喋ってもいいぞ、ミュウ」

「みゅうぅぅぅ……ずっと黙ってるのって、疲れるですの〜」

ちょっとくたびれた様子のミュウを見て、苦笑する。

「悪い悪い。ケテルブルクに着くまでは自由だ」

「自由だっていっても、ボクはご主人様といるですの!」

顔の横でみゅうみゅう言ってるミュウを一撫でして、目をつぶった。

真っ暗になった視界には、色んなものがよぎっていく。

シェリダンの悲劇。

地核のあふれる力。

シンクとの戦い。

ローレライの降臨。

そのすべてを俺は消してしまった。(地核の力は、みんなは見るのだろうが)

書き換えた歴史の中で、この手はあと何をつかむことが出来るだろうか。

手の中にいるミュウをもう一度撫で、声には出さず、ただ。


生き延びた誰かの幸福を願った。


誰かに捧げる祈り
(代わりに消えたかもしれない命の冥福も願い)