考えたら、ケテルブルク、つまりシルバーナ大陸にくるのはいつぶりだろう。

旅の後半は、全然訪れていない気がする。

アッシュを探してパッセージリングを訪れたのが最後だったかもしれない。

久しぶりな雪国は、相変わらず寒かった。

「重装備にした方がいい。だいぶ山奥まで行くから」

「言われなくても」

当然だが、このままの格好では二人とも凍死する。

炎系の譜術を使える人間もいないのだから、体を温める方法も無い。

さらに言うなら、ジェイドのように雪国に詳しい人間もいない。

俺の記憶のみを頼りに進むという、この上なく不安な旅になるから、装備は慎重に選んだ。

ミュウのために、小さい毛布も買って、一緒に道具袋に突っ込んだ。

「雪山は色々厳しい。絶対にそこから出るな。それから喋るな」

「は、はいですの!」

無駄話でも簡単に体力を奪われる。

ミュウに念を押して、準備を終えたシンクと合流して、山に向かった。


パッセージリングまでは、そんなに苦労しなかった。

多少道というものがあったし、魔物も今の俺とシンクなら楽勝のレベル。

しいていうなら、視界がちょっと悪かったぐらいだ。

遺跡の中に入って、だいぶ寒さが和らいだころ、パッセージリングに着いた。

「これで大陸のパッセージリングは最後だ」

俺に反応したのを確認して、超振動で命令を打ち込む。

このあとヴァン師匠がアブソーブゲートからプラネットストームが逆流する命令を入れるのだろうが、

それをとめるのはみんなに任せる。

「それで、用事って?」

命令を打ち込み終わったのを見て、シンクが尋ねた。

「ちょっと戻って、奥に行く」

少し前にあった分かれ道を進んで、山を抜ける。

外も相変わらず吹雪だったが、辛うじて太陽が見えていたので、方角を見失うことはなかった。

別のところから遺跡に入って、そこに置いてあるものを動かす。

「何、これ」

シンクが首をかしげながら聞いた。

「ミュウの炎を反射する置物。

これをうまい具合に並び替えて、決まった場所からミュウの炎を打つと、奥にある扉が開く」

シンクに動かすのを手伝って貰うよう頼んで、動かしながら会話する。

「それで?」

「その扉を抜けると、さらに山の奥にいける。そこにある創世記時代の遺産を取りに行くんだ」

「そんなもの拾ってどうすんのさ?あんたは音機関なんて分からないだろ?」

「シェリダンの人たちと契約してる。それを届けなきゃならない」

「……ふーん」

いまいち納得していない様子で、シンクが手をはたいた。

動かし終わった置物は、うまい具合に通るように、綺麗に並んでいた。


山を抜け、猛吹雪であったのをシンクに愚痴られながら、練成飛譜石を見つけた。

それを道具袋の中にいるミュウにしっかりと持たせ、来た道を戻る。

うまく行き過ぎて若干拍子抜けしたものの、うまくいったことに安心した。


ケテルブルクまで戻って、宿を取る。

このあとみんながロニール雪山のパッセージリングに来るはずだ。

その後一晩泊まって、アブソーブゲート。

宿に入って体を温めながら、シンクに説明する。

「みんなと一緒に来る、ギンジさんに用があるんだ。それまではここで待機。

外に出るなら、周りの気配に気を配ってくれ」

「そんなんばっかりだね」

「隠れて行動してるんだから、仕方ない」

一歩ずつ先手を取って先回りしている以上、それは必然だ。

一応気をつけておく、と言ってシンクは出て行った。

シンクは、よく一人で出かけていく。

どうにもじっとしてられない様だ。

道具袋に入っていたミュウを、タオルでさすってやる。

ずっと吹雪の中にいたせいか、毛がかちんこちんに固まっていた。

「あったかいですの〜」

「寒かっただろ。少しここに留まるからな。休んどけ」

「みゅううぅぅぅ」

嬉しそうに鳴いて、ミュウは布団にころりと転がった。

窓の外を覗けば、真っ白い雪が深々と降っていた。


「分かりました。じゃあ、皆さんを送ったらすぐに戻ってきます」

「お願いします」

みんながケテルブルクにやってきたのを知り、(ディストも相変わらずここで待っていて凍傷らしい)

パッセージリングへいなくなった間に、ギンジさんに話しかけた。

ラジエイトゲートはその構造上、上空から近づくのが一番いい。

そのためにはアルビオールがいるからだ。

運賃代わりに練成飛譜石を前渡しして、約束して別れる。

あとはしばらくここで待機して、ギンジさんが来たらラジエイトゲートに行き、

アッシュと一緒に外殻大地を降下させるだけだ。

それで、一段落着く。

問題はまだ山積みだし、終わりではないけど。

全てが終わるのは、もう少し先。

すでに真っ赤になっているだろうこの手を、大地に突き刺す時だ。

その時、この世界が青い空に包まれていることを望んで。

今は真っ白になっている、空を見上げた。


雪は止まない。


凍りついた雪の記憶
(白い世界と、青い夢と、あかい自分)