最初は、本当にただ、居心地が良かっただけだった。 初めて僕を人間扱いしてくれる、その場所を求めていただけだったんだ。 でも、ちょっと一緒に旅をすればすぐ分かる。 ルークの行動がちょっとおかしいことなんて。 本当に未来を知ってるんじゃないかってくらいの行動に、 (しかも預言なんてものよりずっと正確な) 自己犠牲なんて言葉がぴったり合う、その振る舞い(命が要らないのか)。 何をしたいのか、全然分からなかった。 生きたいのか、死にたいのか。 はたまた別の何かを望んでいるのか。 自由行動の時は、なるべく町を歩いて情報収集をした。 毎回毎回同じ結果になるのだが。 つまりは、ルークのした行動を追うようにあいつらは行動し(ルークが先取っているというのが正しいか)、 結果ことごとくヴァンは邪魔されている。 それはもう見事なほどに。 あいつらを助けたい(なんて甘い!)、ヴァンの邪魔をしたい(昔慕っていたにしては容赦ない)、 理に適っているようで矛盾しているけどそれだけは分かった。 もっと言えば、そこまでしか分からなかった。 何となく本人に聞くのもはばかれて、どうしようかと迷っていたら、向こうから吹っかけてきてくれた。 曰く。 「もし俺がいなくなったらどうする?」 そう僕に尋ねるルークは、淡々としてどこか悲しそうに見えた。 この瞬間、僕はルークがしたいことが分かったような気がした。 それをあえて言葉に出してみれば、はぐらかすように尋ね返してくる。 それで僕は確信した。 最終的に、ルークは死にたいのだ。 それも、一人で死ぬことを望んでいて。 孤独な死を目的として歩いている。 だが死に場所も決まっていて、そこにたどり着くまでは死ぬわけには行かない。 生きたくて、死にたい。 その思いの結果が、どこか矛盾した行動だったのだ。 ばかだ。 なんでそんな苦しい道を、わざわざ自分から歩むのか。 せっかく生まれてきたのなら、もっと楽に幸せに生きればいいのに。 (レプリカだからそんな権利はない、なんて考えは例によって目の前の奴のおかげでとうに消えうせている) 楽に生きたがるのが、幸せになろうとするのが、人間って生き物だったはず。 それでもルークは、自分は人間であると言った。 たった一つのものしか見えない、ばかな人間だって。 何かのために命をかけるその姿は、確かに人間だった。 未だすっきりしない思いを抱えたまま、離れるわけにはいかない。 少なくとも答えが出るまでは意地でもついていってやる、と心に決める。 いくらか空いた時間は、奴らの動向を探るためではなく、考えることに費やした。 このやりきれない気持ちはなんだろう。 なんでこんな気持ちになるんだろう。 答えは出ないまま、旅は先に進む。 ベルケンドで、ルークが瘴気に侵されて余命が少ないことを聞いた。 だが、ルークは治すあてがあるという。 どうやら嘘じゃないらしい。 なら、ルークの目指すルークの死因とは何だ? やっぱり、答えは出ない。 雪国でのパッセージリング操作を追え、ケテルブルクに戻ってくる。 次はラジエイトゲートで、アブソーブゲートから操作を行うアッシュを助けるらしい。 出発まで時間があるというから、また僕は町に出た。 人に見つかりにくい、町を見渡せる雪の丘を見つけ、そこから空を見上げる。 ひたすら真っ白だった。 しばらくぼんやりとする。 僕は一体何をしてるんだろう。 どうしてここにいるんだろう。 僕は……ただ、この答えを、知りたいだけ。 途端、僕の脳に雷が落ちたような衝撃が走った。 僕は、答えを知りたい、ただそれだけのために行動していた。 けど、ルークは? 理由は分からない、目的だけは知っている。 少なくとも、確固たる理由があるだろうことも、知っている。 ルークは、正確に自分の望むことをしていただけだったのだ。 明確な目標と、道筋があって、その道を必死に歩んでいる。 ああ、だからなのだ。 僕が、ルークを見てよくわからない羨望のような感情を持ったのは。 あいつが、自分のなすべきことだけを見ていたからだ。 では、僕は? 僕は何を見ている? ルークが歩いていくのを、見ていただけだった。 僕がすべきことはなんだ? 分からない。 僕に出来ることは、僕に与えられたことは何だ? ルークを手助けすることはできる。 だけどそれは結局、ルークの行く道を眺めているだけだ。 ルークの死を、隣で、ただ……。 そうだ。 僕に出来ることが一つあった。 見届けること。 一人の人間として生きるルークの生を、一人の人間として見届けること。 これは、僕にしかできない。 一人の人間、同じレプリカとしていう条件を入れれば、あのチーグルにだってできない。 レプリカは死んだら何も残らない。 ましてや孤独死を目指しているルークには、その手元にもほとんど何も残らないだろう。 ならばせめて、その生きた証だけは、僕の心に刻んでやろう。 ルークが何を思って、何のために生きたのかを、出来る限り。 僕たちレプリカは、何が出来るかということを、僕が生きている限り同じレプリカに伝えて。 ルークの最期を、悼むのもいいかもしれない。 それが、ルークに生きる意味を与えられ、レプリカという人間になった僕の役目だ。 僕が僕自身に課す、生きている意味だ。 ラジエイトゲートで、静かな空間でルークと二人。(チーグルは無視だ) だから、聞いた。 ほとんど確信だったから、確認に近かったのだけれど。 ルークは意外にもあっさりと頷いた。 見届けたい、という僕の望みも受け入れてくれた。 生まれて初めて嬉しくて笑った気がする。 心の中で小さく、礼を言う。 僕を人間にしてくれてありがとう。 僕に生きる理由をくれてありがとう。 きっと最期までこの思いを伝えることはないから、今だけ。 静かに僕のお礼を受け取って。 命の光が天に昇る、その日まで (僕は君の隣にいるよ)