迎えに来たギンジさんと一緒に、ラジエイトゲートへ。 みんなを送ったらまた迎えに来てもらえるよう頼んで、下っていく。 「へえ、ラジエイトゲートってこんな風になってたんだね」 片手間に魔物を倒しながら、シンクが下を覗き込む。 「来たことなかったのか?」 てっきり偵察か何かで来たことがあると思っていたが。 「本当なら、次にここへ来る予定だった」 その前に俺に同行することになったと、そういうことか。 ラジエイトゲートは、アブソーブゲートよりも構造が単純で、小さい。 当然だが汚染されたモースもいないし、簡単に最下層に着けた。 「ここで、向こうの降下準備が整うまで待つ」 「向こうは何してんのさ」 「今頃、ヴァン師匠と戦ってるかもな」 パッセージリングはぎりぎりまで起動させない。 俺があいつらの動きを読んでいたことを知らせないためだ。 少し離れたところに腰掛ける。 シンクが、そこから二人分ほど離れたところに座った。 「ねえ、ルーク」 しばしの沈黙が流れたあと、シンクがこちらを見ないまま尋ねてきた。 俺もシンクの方を見ないまま答える。 「何だ」 「アンタは言ってたよね。自己満足でこんなことしてるっていうのと、最後は多分死ぬってことを」 「言ったな」 「それじゃ、まだ納得行かない部分があるんだけど」 「何がだ」 顔は向けないまま、疑問の言葉を向ける。 シンクの言いたいことがいまいちつかめない。 「アンタの行動は、アクゼリュスの償いにしてはおかしいんだよね」 「……」 「ザレッホ火山から、僕なりに色々考えてみた。アンタの今までの言動、 ヴァンの行動にあいつらの動き、世界の情勢とか色々踏まえた上でさ」 一人でどこかに行くことが多かったのは、考え事をしていたのだろうか。 「アンタはヴァンの行動を先読みしすぎてる。それ自体既におかしいだけど、 とりあえずそれは置いて、それだけ先が読めているなら、 本当はあいつらと協力したほうが絶対に効率はいいはずだ。 向こうには各国の有力者がそろい踏みしてるんだからね」 ファブレの正統な後継者(アッシュ)に、キムラスカ王国の、一応王女(ナタリア)、 まだ爵位は貰っていないマルクトの貴族(ガイ)に、 マルクト国軍大佐(ジェイド)、終いにはダアトの最高権力者、導師(イオン)だ。 確かに、その権力には助けられたことも少なくない。 「それなのに、あんたが一人別行動する理由は限られてくる。 一つは、あいつらがよっぽど嫌いだってことだね」 一応、嫌いに見えるように振舞ってはいる。 だがシンクの声を考えると、それが正解だとは思っていないらしい。 「でも、それよりもすっきりくる答えが、一つあった。 あんたがやたら甘いことと、他人を突き放すような言動をしていること、 いずれ死ぬだろうと自分で思っていること…… それから考えるとさ、アンタの目的は孤独死だって結論になった」 ミュウが道具袋の中で一鳴きした。 「誰にも看取られず、誰にも惜しまれることなく、一人で死ぬこと。それがアンタの目的だったんじゃないの?」 道具袋の中でなにやらわめいてるミュウを取り出して、膝に乗せてやる。 毛並みを撫でて、落ちつかさせた。 それから、一つ息を吐いく。 多分、ごまかしても引いてはくれないだろう。 「……正解だよ、この上なくな」 「やっぱり」 「どうしてヴァン師匠の動向を知っているかはいえない。だが、確かに俺の目的はそこにある」 「だから僕の同行を渋ってたっての?」 なぜか、シンクの声が不満そうに感じる。 「そうだ」 「残念でした。僕はアンタが死んだって、悲しんだり惜しんだりはしてやらないよ」 「なら、どうして俺についてくる?」 「最初は、人間扱いするアンタの隣が、一番居易かっただけさ」 肩をすくめて、シンクはパッセージリングの方を見つめる。 「……僕はレプリカっていう人間、アンタもレプリカっていう人間、僕らは同類だ。 そしてアンタは、僕が初めて出会った、製作者に大きく逆らうレプリカだ」 ヴァン師匠が俺を作った目的は、アクゼリュスを崩壊させるための捨て駒。 俺は生き延びて、こうして師匠の邪魔をするために動き続けている。 とりあえず、ここまでシンクが言っていることは分かった。 「興味本位、かな。見届けたいと思ったんだよ。 僕が憎んだ預言に縛られないレプリカが、どんな道を歩み、どんな最期を迎えるのか」 「物好き、だな」 レプリカは死んだら何も残らない。 俺が歩んだ軌跡すら、消えてしまうはずだった。 こうした同行者が、誰もいなかったのなら。 「あと、ただ、死後何も残らないっていうのは哀れだからね。 同胞として悼むくらいはしてやろう、とも思ってさ」 「はは、はははははっ」 「……何がおかしいのさ」 笑い出した俺に、シンクが不満そうな声をもらした。 「いや、今まで俺の周りにはそんな奴はいなかったから」 前回も、含めて。 俺を助けてくれようとする人、見下そうとする人、認めようとしてくれた人、 殺そうとする人、そんな人間なら、たくさん周りに溢れていたけれど。 俺がすることを静かに見届けようとしてくれる人、なんて誰一人いなかったのだ。 たったそれだけのことが、なぜか、とても。 そしてそれが、前よりもずっと心が軽くなった理由だってことも、ようやくわかった。 「だったら見届けてみろ。俺が残す軌跡、成すこと、俺という人間がこの世界に残す全てを」 「言われなくても」 シンクと向かい合って、多分初めて声を立てて笑いあった。 少しして、パッセージリングの起動音が辺りに響き渡る。 「時間だな」 立ち上がって肩をまわした。 「ま、せいぜい頑張りなよ」 シンクの皮肉げな声援を背に、パッセージリングを見据える。 「ああ」 手に力をこめ、パッセージリングに力を流し込む。 ある程度出したところで、同じようで違う、もう一つの力を感じた。 アッシュの力だ。 それに上乗せするように俺の力を加えて、世界中を超振動で覆う。 すさまじい音を立てて、大地は降下した。 親愛でも侮蔑でもない、ただの (なぜだろう、たったこれだけのことが、とても嬉しいなんて)