かしゃん、と剣を腰につける。

持ち物を確認して、俺は部屋を出た。


「ルーク、準備できた?」

「ああ、お前も準備いいな?」

「当然」

部屋に出ると、仮面をつけたシンクが体を伸ばしていた。

一ヶ月シェリダンの人たちに世話になって、ゆっくりと休んだ。

これから、最後の旅を始める。

「ノエル、アルビオールは?」

「いつでもいけますよ、ルークさん」

練成飛譜石をつけたアルビオール二号機も準備万端。

用意は全て整った。

「行くか。皆さん、お世話になりました」

「ですのー!」

ミュウも一緒に礼をした。

「行ってらっしゃい」

「いつでも帰って来いよ」

「ノエルを頼むぞ」

職人総出の見送りに苦笑して、手をあげて答えた。

帰ってくることは出来ないけれど、せめて最後の旅路の始まりを。

「行ってきます」

そして俺達は、シェリダンを出発した。


「それで、まずはどこに行きますか?」

空を舞いながらノエルが尋ねる。

「西ルグニカ平野の辺りに頼む」

「分かりました」

了承したノエルは、操縦桿を握った。

「何しに行くの?」

「その辺りで、マルクト兵が、キムラスカの軍旗を掲げた集団に襲われる。

まあその実、レプリカの軍団なんだが」

「! ヴァンとモースが作っていたレプリカ達か!」

シンクはそのレプリカに心当たりがあったらしい。

まあ、それなりに計画の概要を聞かされていたのだろう。

「そうだ」

シンクは嫌そうな顔をした。

シンクはもう、レプリカも立派な人間であると納得している。

同胞が道具のように使われていることに、反感を覚えたのかもしれない。

そして少ししてから、あ、と声を上げた。

「アンタが言っていた、瘴気を何とかする時期も、そろそろじゃないの?」

「ああ。もうすぐ分かる」

シンクは何となく察したのか、また嫌そうな顔をした。


「ご主人様、あそこですの!ジェイドさんと同じ服ですの!」

グランコクマに近い辺りで、ミュウが声を上げた。

そちらの方を見ると、確かにマルクト軍の青い制服が見える。

「ノエル、マルクト軍に近づいてくれ」

「はい」

ゆっくり下降して、アルビオールはマルクト軍から少し離れたところに着地した。

「ノエルとシンクは、とりあえず中で待っててくれ」

そう言って、アルビオールから降りる。

こちらに鋭い視線を向けるマルクト軍に向かって、叫んだ。

「アスラン・フリングス将軍!俺はルークだ!話がある!」

少しして、兵を書き分けるようにフリングス将軍が現れた。

「あなたは、数ヶ月前に陛下に謁見されたルークさんですね?」

確認を取るように聞かれた。

強調するのは、多分アッシュと比較するためだろう。

「はい」

「なぜ、私の名前を知っているのですか?私はあなたに名乗った覚えはありませんが」

今回、都合上、フリングス将軍と個人的に話をしていない。

前の謁見で、互いに顔を合わせた程度だ。

「あなたの名前は有名ですから」

当たり障りのないところで済ませておく。

「私に何のようですか?」

とりあえず本人確認を取って、用件を尋ねてくる。

「単刀直入に言います。すぐに演習を中断して、首都へ引き上げてください」

後ろで声を上げようとした兵達を黙らせ、フリングス将軍が先を促した。

「なぜ?」

「ここは危険です。これからキムラスカの振りをしたレプリカの集団が襲ってきます。

多数の死傷者が出ますよ」

内容が突飛過ぎたのか、さすがのフリングス将軍も怪訝そうな顔をした。

どう説明しようか、と思っていると、鋭い声が後ろから上がる。

「少将!後方百メートルに、キムラスカの軍旗が!」

「何!?」

「ち、もう来たか!」

避難させている暇はないか、と左腰に差した剣を抜いた。

「マルクト軍の皆さん、下がってください!ノエル、アルビオールは上空に避難させろ!

シンク、降りて来い、手伝え!」

マルクト軍は慌てるだけだったが、ノエルとシンクはすぐに従ってくれた。

アルビオールは高く舞い上がり、シンクが急いでこちらへ駆けてくる。

「で、僕に何をしろって!?」

「俺は前に出る、お前は後ろでマルクト兵が前に出てこないように見ててくれ」

聞いたシンクが激昂した。

「アンタ一人で相手する気!?いくらなんでも無茶だよ!」

「相手が普通の人間だったならな。とにかく頼んだ!」

シンクを置いて走り出し、構えた剣を握る。

マルクト兵たちを抜くと、もう軍勢は目の前に迫っていた。

なるべくマルクト兵たちから離れる。

「ルーク!」

「来るな、シンク!」

声をかけたシンクに、背を向けたまま叫ぶ。

剣を両手で持ち、思いっきり地面に突き刺した。

剣の前方に、扇型に光が広がった。

剣が、ローレライの剣が、震える。

「くらえぇぇぇぇぇ!!!」


視界が真っ白になった。


二度、鐘の音が鳴る
(さあ、二幕の始まりだ)