「お帰りなさい、二人とも」 色々と辛いだろうに、それでも笑顔で迎えてくれるノエルに感謝しながら、アルビオールに乗り込んだ。 「で、次は?瘴気中和に行くの?」 「いや、その前に一つすることがある」 えーっと、と地図に目を滑らせ、一点を指した。 そこはまたもや海。 だが、次もシンクが知っている場所だった。 「あー、なるほど。第七音素の補充?」 「ま、そんなとこかな。頼むよノエル」 「はい」 アルビオールは発進した。 イスパニア半島の北の端。 そこに俺たちはいた。 「でも、あれってまだ海のどまん中にあるんだけど」 アルビオールの窓から、海の方をみながらシンクが言う。 ついでに、作成途中で、まだアルビオールで着地できるようなとこは多分ないよ、と付け加えた。 「防壁代わりのプラネットストームを止めようとしたら、 後が色々大変だろうから……今の内に壊しておきたいんだ」 新生ホド、エルドラント。 第七音素でできた、ホドのレプリカ。 瘴気中和のための第七音素の回収の意味もあって、分解しに来たのだ。 「それに、移動なら……ノエル、水上移動できるか?」 「はい、問題ありません」 「うわー、そんなことまで出来んの」 シンクは感心して、海上に着水したアルビオールから、もう一度海を眺めた。 「変な気分だね」 「まあな」 時折現れる海の中の魔物を、シンクと二人で撃退しながら、アルビオールはそれなりに大きな物体の前に着いた。 「予定より、少し大きいな」 シンクが呟く。 「前倒ししてるのかもな。シンクは中にいろ。ノエル。それなりに衝撃が来ると思う。大丈夫か?」 「はい。多少の衝撃は大丈夫です」 「危ないと思ったら、すぐに退避してくれ」 「はい」 預かっててくれ、とシンクにミュウを放り投げる。 「ご主人様、頑張ってくださいですの!」 「気をつけなよ」 「ああ、ありがとう、ミュウ、シンク」 軽く笑って、機体の上に出る。 まだ完成していなくてもそれは十分な大きさで、もう一番上が見えない。 「さて、やるか」 左腰からローレライの剣を抜き、構えて深呼吸をする。 意を決して、力を込めた。 びりびりと腕が震える。 エルドラントを分解して、その第七音素を剣に収束するだけなのだが、すさまじい反動だ。 何度も意識が飛びそうになる自分を叱咤して、歯をかみ締める。 短いような長いような、気が遠くなるような時間の後、俺は座り込んだ。 目の前には、紫色の空と、にごった海だけが広がっている。 終わったと分かったのか、シンクとミュウが上がって来た。 「ご主人様、大丈夫ですの!?」 「ルーク!」 「何とか、な」 レプリカの兵士たちを分解したよりも、ずっと反動がでかい。 まあ当たり前なのかもしれない。 もはや濃密の域を超えた第七音素が収束されているローレライの剣は、熱すら持っていた。 「……疲れた」 「そりゃそうだろうよ!そんな状態で瘴気中和は出来ないだろ?とりあえず休みな」 シンクに支えられながら機体内に戻る。 ノエルも心配そうにこちらを見てきた。 「アルビオールは目立つ……そうだな、レムの塔の近くで休もう。それなら、明朝瘴気中和を行える」 「レムの塔?どこ、それ。そこで瘴気中和をやるの?」 ああ、と返事して、地図を持ってきてもらえるよう頼んだ。 そしてここだよ、と指差す。 そこは地図には何の地名も乗っていない無人島。 「なんでこんなところで瘴気中和するの?」 「瘴気中和は、障害物が少ないほうがいいらしい……そこは、とても高い塔だから……」 頼むよ、とノエルに地図を返して、力を抜く。 外を眺めているシンク、みゅうみゅうと足で鳴いているミュウを視界の隅に入れながら、 近くに立てかけたローレライの剣を見る。 それなりの灯りになるくらいは発光し、軽く熱を持っているそれは、しかし冷たそうに立てかけられていた。 熱く、冷たく、それは人のようで (ずっと一緒だった。もう少し、頑張ってくれ)