明朝、俺達が行くと、何とヴァン師匠たちは既についていた。 まだ日が昇ったばかりだというのに、何と早い。 「早すぎですよ」 「お前が遅いのだ。宣戦布告しておきながら、閣下をお待たせするとは」 怒っているのは師匠よりリグレットだ。 いや、絶対今は非常識な時間だ。 「絶対お前達が早すぎる」 まあいいか。 「サプライズできそうだぜ。降りて来いよ」 既に降りていた俺に続いて降りてきた奴に、ヴァン師匠たちはみんな驚いた。 「シンク!!」 「久しぶりだね、ヴァン」 「……なるほど、お前ルークレプリカと共にいたのか」 「裏切り者!」 「シンク……」 反応は人それぞれだった。 裏切り者はあんたもだろ、とディストに一喝してから、シンクは仮面を外して笑った。 「イオン……様……」 アリエッタが震えている。 「あーあ、シンク、アリエッタがいるのに」 「今さらだろ。いずれ分かるんだし。真相はアリエッタ、アンタ自身の手でイオンにでも聞きな」 シンクの言葉にアリエッタは怪訝そうな顔をしたが、やがてハッとした。 「でも、イオン様、行方不明……まさか!」 「正解。イオンは俺達が連れて行ったんだよ。全部終わったら解放されるはずだから、その内会えるだろ」 続きを俺が引き取って、そしてヴァン師匠に向き直った。 「一対一です。ヴァン師匠」 「邪魔したら僕が妨害に入るから」 シンクが指を鳴らしている。 ヴァンは数瞬迷ってから、一歩踏み出す。 「閣下!」 「いいだろう、その驕り、私が叩き切ってやろう!」 師匠が剣を抜く。 俺は足元にいたミュウを後ろにいたシンクに放り投げた。 「シンク、ミュウを頼む。ミュウ、大人しくしてろよ!」 「了解」 「はいですの!」 シンクはミュウを掴んで一歩下がった。 ノエルは既に指示通りに高く、たとえアリエッタの魔物でもたどり着けないくらい高く飛んでいる。 俺は、右腰から、愛剣を抜いた。 「左の妙な剣は、抜かないのか?」 「その意味、いずれ分かりますよ。シンク、合図を頼む」 構えて、シンクの合図を待つ。 鋭い風が吹いた。 それが合図。 「でやぁぁぁ!」 地面を蹴って飛び掛る。 もちろん師匠はそれを受け止めた。 お互いに弾き返して、再び体勢を整える。 師匠が詠唱を始めたのを見て、すかさず妨害に入った。 邪魔された師匠が、一歩引く。 俺はすぐさま間合いをつめて、切り出す。 師匠は俺の体ごと弾き飛ばした。 「強くなったな、ルーク!」 「おかげさまで!」 師匠との戦いは二回目。 今回はみんながいないけれど、師匠の戦い方は覚えている。 おまけに、俺はこっちでもずっと戦い続けてきた。 ちょっとは剣も上達したと自負している。 それでも師匠はやっぱり強くて、なかなか決着が着かなかった。 「本当に、強くなったな、ルーク……私も忌まわしい力を解放せねばならないようだ」 来た。 この時を待っていた。 俺はすぐさま愛剣を鞘に収め、左腰のローレライの鍵を抜く。 俺が抜かなかった二本目に、師匠も警戒を示した。 ローレライの力を解放した瞬間、俺は宝珠の力を発動した。 「それは、まさか……ローレライの宝珠!?」 今までほとんどヴァン師匠とも接触していなかったから、師匠も目を見開いた。 「まさか!」 リグレットの声が聞こえる。 「そのまさか、だ!」 ヴァン師匠に宿っていた第七音素が拡散していく。 ローレライの力も、もともと師匠がもっていた第七音素も。 もちろん、師匠の動きは鈍った。 俺は散った第七音素をローレライの剣に収束する。 そして、力の限りヴァン師匠に向かって放った。 「これで決めてやる!響け、集え、全てを滅する刃と化せ!ロスト・フォン・ドライブ!」 轟音が、辺りに響き渡る。 多分それは、今までで一番痛い超振動だった。 師匠にとっても、俺にとっても。 体が重い。 今まで使ったどの超振動よりも、反動がつらい……というより痛かった。 鉛のような体を引きずって、師匠の元へ行く。 「閣下!」 「総長!」 師匠の下へ来ようとするリグレットたちを、シンクが牽制しているのが見える。 「ありがとう、シンク」 そして俺は、倒れた師匠の上にローレライの剣を掲げた。 「師匠、何か言うことは」 「……まさか、出来損ないに、この私が、負けるとは……」 「出来損ないでも、俺はレプリカという人間です。生きて生きて、俺はここまで来た。 俺が目指した、預言とも、あの時とも違う未来を目指して」 かすかにとまどいの声が聞こえる。 ただ、俺はヴァン師匠だけを見ていた。 ヴァン師匠は静かに目を閉じる。 「私に勝ったのなら、最後まで生きてみせろ、ルーク・フォン・ファブレ」 とくん、と音がした。 ヴァン師匠が知るわけはない。 ならばこれはただの偶然。 ああ、でもどうしてよりによって最後の言葉がそれなんですか、師匠! だから俺は、あなたをどうしても憎みきることができなかった。 たとえ演技であっても、あの頃、俺の支えは師匠だけだった。 ふ、と口を歪めて。 「残念ながら、それはできません。音譜帯で会いましょう」 俺が出来る限りの敬愛の表情を浮かべる。 そして俺は言葉と共に剣を振り下ろした。 「それまでさようなら、ヴァン師匠。ありがとうございました」 確かにあなたは、俺が最も敬愛した師匠でした。 鈍い音が、響いた。 全ての過去との決別 (俺の全てだった、敬愛する師匠へ)