真実の一端について


翌朝、セントビナーを出て、一行はカイツールに向かった。

フーブラス川を渡り、カイツールへとたどり着く。

検問に話しかけようとしたところ、低い声が響いた。

「ルーク!」

「ヴァン、師匠」

ルークがそちらを振り向くと、ヴァン・グランツが歩いてくるところだった。

その姿を見たティアは、殺気立たせてナイフを構える。

「ヴァン!」

だがヴァンは動じることなく、ティアをいさめる。

「ティア、武器を収めなさい。お前は誤解しているのだ」

「誤解……?」

落ち着いたら宿に来るように言って、ヴァンはその場を離れた。


少しして一行は宿に向かい、

そこでヴァンは、六神将の行動は大詠師モースの命令だろうと釈明し、

自分は動きを把握してないことを告げた。

ティアはどうにも納得がいかないようであったが、

第七譜石に関することを持ち上げられると、押し黙った。

それからヴァンは旅券を渡して先へカイツール港へと向かっていった。

「意外だったな」

それを見送りながら、ガイが感嘆したように呟く。

それを聞きとめたアニスが、何のことだと尋ねた。

「ルークが第七譜石のことを知ってるとは……

その辺りの話は、家庭教師に反発して、ろくに学んでないと思ってたんだが」

話の最中、ルークが特に疑問を上げなかったことだ。

それを聞いたルークは慌てて否定した。

「俺だって多少は勉強してるんだよ!」

「はは、悪い悪い」

ガイがぽんぽんとルークの頭を叩く。

ルークはその手を嫌そうに、だが緩やかな動作で払いのけた。

その一連の動作を終えてから、ルークは向き直る。

「それで?今すぐカイツール港に向かうのか?」

ルークの問いに、ジェイドが顎に手をやりながら考える。

「そうですね……イオン様、お体の調子は?」

「大丈夫です。大分遅れてしまいましたし、カイツール港に向かいましょう」

「決まりだな」

「じゃ、行きましょう!」

ガイが頷き、アニスがルークに満面の笑みで微笑みかけた。


昼過ぎにカイツールを発ったので、当然のことながら、一行は野営することになった。

ガイとティアが手際よく準備を進める。

アニスが料理を担当した。

ルークはその間、日記を書いていた。

イオンが後ろから覗き込む。

「ルーク、日記をつけているんですか?」

ルークは一度顔をあげて答えた。

「ん、ああ。医者から書くように言われててな。まあもう習慣だよ」

ルークの言葉に気になる単語が聞こえて、イオンが問い返す。

「医者?」

「タルタロスで言ったろ?俺、ガキの頃の記憶がねえんだ。

で、いつ記憶障害が再発してもいいように、日記をつけとくように言われてんだよ」

「そうなんですか。見させてもらっても構いませんか?」

イオンが尋ねると、ルークは少しだけ間を空けて、そして笑った。

日記を終わらせるのか、一気に五行ほど書き上げて、イオンに日記を差し出した。

「……いいぜ。ほらよ」

イオンがルークの隣に腰掛ける。

そしてルークが差し出した日記を読んだ。

「!」

そして、ルークが書き足した五行を読むなり、勢いよく顔を上げた。

「ルーク、あなたは」

イオンが口に出そうとしたのを、ルークはやんわり制した。

口に指を当てて、息を吐く。

それは“静かに”という動作だ。

イオンも口をつぐむ。

そしてもう一度日記を読み直してから、ゆっくりと閉じて、ルークにそれを返した。

「とても面白かったです。ありがとう」

「おう」

「また、読ませてもらっても、構いませんか?」

「もちろん」

ルークがそう答えると、イオンはとても嬉しそうに笑った。

「ルーク、日記をつけ終えたのなら手伝ってくれ。盛り付けるから」

少し離れたところから、ガイの声がかかった。

ルークは日記を荷物にしまい、立ち上がって返事をする。

「今行く。イオンはもう少し座って休んでろ」

「はい。ありがとうございます、ルーク」

イオンは笑いながらルークを見送った。

それからルークの動きを目で追い、ガイ達と一緒になって準備するのを眺める。

イオンは先ほどの日記の内容を反芻する。

それから小さく何度か頷いた。

「……それなら、幾つかのことに納得が行きます。でも……」

イオンはぽつりと呟く。


「“何のため”に、なんでしょうか……?」