交差する戦い ティアの譜歌でほとんどの敵を眠らせ、ジェイドとティアはブリッジへと入った。 イオンとアニスも中へ入って行き、ルークは外を見張るよう言われる。 しばし迷った後、ルークは頷いた。 「さて、と」 とりあえずは静かになったところで、ルークはミュウを持ち上げる。 「いいか、ミュウ。これから俺が言うことをよく聞け」 ルークの目に真剣さを感じて、ミュウは勢い良く了承の返事した。 ルークとミュウがこそこそと何かを話している中、その上方から様子を見ている者がいた。その者は話し込んでいる様子を見て、舌打ちする。 そして、勢い良く飛び降りた。 「戦場で雑談とは、随分と余裕だな、屑野郎!」 足が着くか着かないかのところで、アイシクルレインを放つ。 直撃すると思われたその氷は、手前で全部、不自然に落ちた。 「!?」 飛び降りてきた者の顔を確認して、ルークが驚きの声を上げる。 「お前っ……っ」 何かを言いかけて飲み込む。 「みゅ、ご主人様とそっくりですの!」 混乱しかけていたその者は、ミュウの言葉でハッとしたようにルークを睨んだ。 「こんな出来損ないと一緒にするじゃねえ!」 殺気を込めて睨んでくるのを見て、ルークがため息をついた。 その様子を見て、ますますその者は怒りを募らせた。 「てめえ、何様のつもりだ」 「……お前には、もう関係ないよ」 ため息混じりに告げられたその言葉に、バカにされたのかと思ったのかその者は一気に沸いて、再びアイシクルレインを唱え始めた。 途端、間が悪くブリッジに繋がる扉が開く。 「どうしたの!?」 「どうしたんですか?」 アニスとイオンだった。 アイシクルレインの詠唱は既に終了している。 ルークはとっさに動いた。 「イオン、危ねえ!」 放たれた氷は、アニスとルークに命中した。 その衝撃に、両名とも意識を失う。 「ご主人様!」 「ルーク!」 慌ててミュウとイオンがルークに寄り添った。 「何事!?」 中にいたティアとジェイドも出てくる。 すると、今度は頭上から譜術が降って来た。 ティアはまともにそれを食らって、他の三人と同じように崩れ落ちる。 ジェイドは辛うじて避けて、すぐさま頭上を見上げた。 「さすが、ネクロマンサー殿はしぶといと見える」 そこには金髪の女性が立っていた。 ジェイドに譜銃をむけてから降りていった青年に目を向ける。 「アッシュ、導師に怪我をさせる気か?」 「リグレット、邪魔するんじゃねえ!」 「命令違反とみなすぞ」 その言葉にアッシュと呼ばれた青年は詰まる。 それを眺めてから、リグレットと呼ばれた女性は再びジェイドに目を向けた。 「大人しくイオン様を渡して貰おうか」 ジェイドは倒れているルークたちを見、リグレットとアッシュを見比べてから、両手をあげた。 「――、あな…は、……な――から、……は……」 ルークは覚醒した。 「起きたの?」 傍にいたティアが、ルークを覗き込む。 ティアが視界に入った瞬間、ルークは目を見開いた。 「どうしたの?」 ティアに訝しげに問われ、しばらく瞬きをしてから、ルークは起き上がった。 「……ティア、だよな?」 恐る恐る確認するような言い方に、ティアは怪訝な表情になる。 「あなた、頭でも打った?」 「いや、大丈夫だ。うん……うん、何でもない」 軽く頭をコツン、と叩いて、ルークは笑った。 良かったと泣きついて来るミュウを撫でながら、ルークはあたりを見回した。 「ここは?」 ルークの問いには、少し離れたところにいたジェイドが答えた。 「タルタロスの一室です。われわれは捕まったのですよ」 「その上、イオン様も連れて行かれちゃって……」 ティアとジェイドの中間辺りにいたアニスが、落ち込んだ声を出した。 「イオンが!?」 「そして今、ここを脱出するための作戦と、イオン様を救出するための作戦を立てていたところです」 ジェイドが簡潔に状況を述べる。 ルークは少し時間を空けてから、悔しそうに顔をゆがめた。 「今、後悔したって何も始まりません。それよりこれから先のことを考えるべきですよ」 「分かってるよ」 ぶんぶん、と一度大きく頭を振ってから、ルークは改めてジェイドに向き直った。 作戦は、イオンはどこかに連れ出されたが、またここへ戻って来るらしいからそこを狙って救出しようというのと、 艦につけられた非情停止機構を利用しようというものだった。 特に反対する理由もなく、ルークは頷く。 では、とジェイドが機構を動かす前に、ティアがふと言った。 「あなたは、戦えるのね?」 「え?」 ルークは聞き返す。 ティアは分かりやすいように補足をつけてもう一度告げた。 「おそらく同じ手は通用しない。今度は兵士と真っ向から戦うかもしれないわ。その時、あなたは武器を持って戦える?」 ルークは明らかに動揺を浮かべて、うつむいた。 少しの沈黙が流れる。 ミュウが心配そうにルークの足に寄り添う。 ミュウはしばらくルークを見上げていたが、急にびくりとした。 その反応の意味が分からないと、ティアが首をかしげるころ、ルークがぽつりと言った。 「イオンのためなら戦う。だけど、命を奪いは、しない」 「呆れた。甘いのね。ここは戦場よ。」 「戦場だからって、命を奪わないといけないとは限らない。戦い方なんて、いくらでもある」 「……まあ、いいでしょう」 納得したようなしていないような曖昧な返事を返して、ティアは会話を終わらせた。 「では、準備はいいですね?死霊使いの名によって命じる、作戦名“骸狩り”始動せよ」 タルタロスが動きを止める。 ばらばらと出て行く中、最後尾からルークはそれを追いかけた。 「大丈夫だ……」 ルークの呟きは、ミュウだけが聞いていた。