真夜中の邂逅


あまり魔物に会うことも無く、一行はセントビナーにたどり着いた。

入り口に神託の盾がいたのだが、偶然通りかかったエンゲーブの人たちの手を借りて、

セントビナーに入ることに成功する。

軍部に顔を出してくるというジェイドと別れて、一行はイオンのために宿に向かった。

「はあ、疲れた……やっぱベッドがいいわ」

宿に着くなり、ルークがベッドに倒れこむ。

その様子を見てガイが苦笑した。

「はは、やっぱりお坊ちゃまには外の旅はきつかったか」

「そりゃーもう。あれだけうざかった屋敷が恋しくなる日が来るなんてな。

人生わかんないもんだな」

「ですのー」

ミュウが合わせて続ける。

「おいおい、達観したようなこというなよ。まだ旅は続くんだしな」

「うげ」

ルークは隠しもせず嫌な顔をした。

「はは、そう露骨に嫌な顔をするな。それで、どうだ。初めての外の旅は」

ルークはしばらくベッドの上に転がりながら唸っていた。

仰向けになったとき、天井を見ながら呟くように。

「そりゃ、色々、ほんとに色々大変だけど……

外の世界を見れるって点では、そう悪くないかもな」

ガイは意外そうに驚いた顔をした。

「お、お前にしてはポジティブじゃないか。

前よりもちょっとしたことに気が利くようになったし、

色々体験して成長したんじゃないか?」

「そ、そんなんじゃぬぇーよ!」

慌ててルークが反抗する。

分かった分かった、とガイはそれを笑顔で宥めてから、扉に手をかけた。

「俺は他の人たちとか町の様子見に行って来るけど、お前どうする?」

「んー、夕飯まで寝てる。メシになったら起こしに来い」

「了解」

了承してガイは部屋を出て行った。

足音が遠のいていくのを確認して、ルークは隣に転がっていたミュウを引っ張る。

「前は邪魔が入ったからなー。タルタロスでの続きだ、ミュウ」

その時と同じ、引き締まった顔を見て、ミュウは一度力強く一鳴きした。


日が沈む頃、ガイはルークを起こしに来た。

ルークはベッドの上でミュウと共にすやすやと寝ている。

ガイは軽く笑いながら、ルークに声をかけた。

「ルーク、起きろ。夕飯だぞ」

ゆさゆさと揺らすと、ルークはぼんやりと目を開けた。

「眠い……ヴァヴ……」

「は?」

耳慣れない単語にガイが聞き返すと、ルークは目を覚ました。

「あれ、ガイ?ああ、メシか」

「ん、ああ」

ルークは伸びをして、ミュウを引っ張って部屋を出て行った。

そして立ちすくんでいるガイに一声かける。

「どうした、ガイ」

「……いや、なんでもない」

ガイは少し考えた後、そう告げてルークの後を追った。


夜、全員が寝静まった後に、ルークは宿を抜け出した。

外に出て、少しあたりを見回してから、方向を定めて歩き出した。

セントビナーの象徴、ソイルの木にたどり着くと、ルークは小さく笑った。

「よく来たな」

「待ってたよ」

「……」

木の上に、人影が二つ。

それを確認して、ルークは笑みを深めた。

「お前も来たのか」

「……」

ルークは尋ねるが、小さい人影の方は、震えたまま静かにしている。

大きい人影の方は、ルークが来る場所を空けるために、後ろへと下がった。

ルークは梯子を登り、二人の下へ行く。

「大体のことは、聞いたな?」

ルークの問いに、小さい人影が頷く。

大きい人影は、当たり前だと頷いた。

「ただでさえ時間がないんだ。ここで、そんなことに時間を取られたくないし」

「いい判断だ」

ルークが褒めると、大きい人影は嬉しそうに笑った。

「以前、頼んでおいた件は?」

「ああ、見つけたよ。ちょっと骨が折れたけどね。

言われたとおり、時々目を盗んで会いに行って、色々と教えてる。

割と素直な奴だから、どんどん吸収してるよ」

「こちらの方は、目が多いからな。まだ接触できていない」

「そう。こっちも、今は自由に動けないからね。それで、次の指令は?」

大きい影が促して、ルークは事前に用意しておいた紙を渡す。

大きい影は、それを受け取って中身を読んだ。

「なんだ、分かってたんじゃん」

大きい影は苦笑して、その紙を大事そうに懐にしまった。

「任せた」

「任せといて」

ルークと大きい影は、楽しそうに笑いあう。

小さい影は、ずっと黙ったままだった。

「そろそろ戻るよ」

小さい影は、声は出さずに頷く。

だが、ルークから離れる際に、一言、呟いた。

「ごめんなさい……」

その小さい影に、ルークは声をかける。

「安心しろ。俺は別に無闇に生き物を殺したいわけじゃない」

その言葉をどうとったのかは分からない。


だが、小さい影は、ぺこりと礼をして、大きい影と共に立ち去った。