『身に妖を宿す者よ、力を借りたい』

「……は?」


一話


煌は森を走っていた。

直属の部下である三人をつれて。

いつものように任務をこなし、里へと帰還する最中だった。

だが、唐突に、本当に突然、脳内に声が響いて抜けた声を上げる。

足を止めた煌に、他の三人も慌てて足を止めた。

「どうしました、煌様」

「何か?」

「聞こえないか?」

三人とも、分からないと首をかしげる。

煌も幻聴かと思ったが、思った途端に続いて声が聞こえた。

『お前の中の力を介している。他の者には聞こえない』

『お前、何者だ。煌に何用だ』

どうやら幻聴ではないらしい。

九奈まで会話に入ってきていた。

それを確かに確認した煌は、身の内から聞こえてくる声に耳を傾ける。

一応、手で待てということは周りに伝えた。

『我は別次元に存在する者。我ではどうにも出来ないことがある。手を貸して欲しい』

『いきなり現れた不躾なやつめ。その上、手を貸せだと?思い上がりも甚だしいな』

会話が勝手に進んでいる。

煌は声を届けられないかと、意識を集中させた。

『どこの誰かは知らないが、俺には守るべき里と大切な人たちがいる。ここを離れるわけにはいかない』

『ならば、全て終わった暁には同じ時間軸に汝を戻そう。それならば構うまい』

『貴様、何をする!』

煌は、ぐん、と体が何かに引き寄せられる感じを受けた。

時空間忍術を使った時のようだ、と頭の冷静な部分が分析している。

「う!?」

「煌様!?」

見守っていた三人が急いで駆け寄る。

「九奈!」

思わずそのまま声を出す。

体に絞り出すような声が響いた。

『済まぬ、ナル……抑えられぬ……!』

九奈が抵抗しているが堪えられぬことを理解して、煌は慌てて印を組む。

おそらくそう長くは持たないだろうことは分かっていた。

だが、何も言わずに行くことはできない。

同じ時間軸に帰すとか言ってはいるが、本当かどうかは分からない。

何よりほとんど話を聞かないような奴だ、信用できるかどうか怪しい。

必死に空間を歪める系統の時空間忍術を完成させる。

どうにか留まることのできた煌は、急いで三人を見渡した。

「異次元とやらから何者かが俺に干渉している!引きずり込むつもりだ!

近くにいたら巻き込まれる!離れろ、お前ら!必ず帰ってくるから!」

その言葉に三人は一瞬驚いた顔をしたが、煌が離れろと言ったのにも関わらず、顔を見合わせてからすぐに煌に飛びついた。

「な!?」

「あなたが行くなら行くに決まってるでしょう!」

「一人でなんて行かせません、よっと!」

「一連托生、です!」

何を、という前に煌の意識は真っ白になった。


ふわ、と温かさを感じてナルトは目を覚ました。

辺りは木、つまりここは森。

一見は大して変わっていないが、太陽が空にある、つまりまず時間が違う。

だが、それより。

「空気がおかしい……」

明らかに自分の故郷とは違う空気を感じて、ナルトは僅かに顔をしかめた。

感じたことのない、何かが、たとえるなら“力”というものが満ちているような。

「本当に、異次元……か?」

状況を確認しようと起き上がる。

仲間三人が倒れているのを見たが、息があるのは目覚めた瞬間に分かっていた。

「九奈。聞こえるか?」

『来訪、歓迎する、異界の者よ』

九奈ではなく、さきほどから聞こえていた声が響いた。

どうやらわざわざ意識を集中させなくても声は届くらしい。

「……状況を説明してくれるか」

それが一番手っ取り早いと思い、ため息をつきながらもナルトは問いかけた。

『ここはオールドラントという世界。お前達の世界とは全く違う体系を持った世界だ。

ここには私の子とも分身ともいえる存在がいる。お前達には、その子を助け、導いてやって欲しい』

酷く個人的な理由に、もう一度ナルトはため息をついた。

「待て。その前にまだ俺は受けると言っていない。本当に俺は、確実に向こうの同じ時間に帰れるのか」

ナルトにとってこれが一番大事だった。

守るべき里がある、仲間達もつれてきてしまった。

ナルトには仲間と共に里に帰る義務がある。

『無論、その点は心配いらない。お前達が我の望みを叶えてくれるならば』

ナルトは少し考え込んだ。

こいつは果たして信用できるのか。

殆ど人の話は聞かない、だが人外の存在には違いない。

約束を守るという概念が、こいつの中に存在しているのか。

もしもの場合は、時空間忍術で無理やり時空を歪めて、無茶をしてでも帰り着かなければならない。

だが、その方法に保証はない。

まずは話を聞いてみるのが得策か。

「とりあえず、話は聞いてやる。お前の分身とやらの、子どもの名前は?」


『ルーク・フォン・ファブレ』