二話


他の三人が目覚めるのは殆ど同時だった。

起きてまず、大切な彼がいないことに気づいて慌てて通信を繋げる。

『ナル、どこ!?』

『無事か!?』

『返事して!』

すると、すぐに返事は返って来た。

『お前ら起きたのか。待ってろ、すぐ戻る』

そう声が聞こえた瞬間に慣れた気配がすぐ後ろからして、ほっと息をついた。

「ナル、良かった、無事ね!」

ヒナタが駆け寄ると、ナルトは安心させるように大きく頷く。

「ああ」

「で、ナル、何が起こったんだ?何かめんどくせーことになってる気がびんびんするんだが」

シカマルも違和感に気づいたらしい。

ナルトは苦笑した。

「大当たりだよ、シカ」

そしてナルトは事情を説明し始めた。


一通り終わった後、ヒナタが殺気を尖らせた。

「どこにいるの、そいつ」

「地殻というとこらしい。この星を人体にたとえた時の、チャクラが練られるところのようなものみたいだ。

つまりは力場。行けないぞ」

やるき満々のヒナタに苦笑して、ナルトはヒナタの頭を撫でた。

いのはあっけに取られているし、シカマルは今しがた聞いたばかりの情報を整理している。

「それで、ナルはそいつの頼み、聞く気なの?」

「今のところ安全に帰るにはその方がいいみたいだしな。

とりあえずはこの世界について情報収集して、そのローレライの分身とやらを目で見てみないと」

「それには俺も賛成だ。どっちにしてもここに少し滞在することは免れねえし、情報はあっても困らない」

ナルトにシカマルが賛成した。

ヒナタは若干不満そうにしていたが、しぶしぶ頷く。

頭を切り替えたいのが、若干目を輝かせながら見渡した。

「じゃ、まずどーする?」

「まずは町だな。ローレライ曰く、図書館がある町が近くにあるらしい。まずはそこだ」

「了解」

示し合わせて、四人ともすぐにそこから消えた。


本当にそこには町があった。

とりあえず金髪も青目も黒髪も白目もそこまで珍しいことではないらしいので、変化はせずに町に入った。

さすがに服装は人々を参考にして変化させたが。

「結構人、いるな」

「言葉も分かるわね」

「文字はさっぱり読めねーけどな」

「文化も大分違うみたい。見たことない機械があるもの」

不審にならない程度に辺りを見回しながら歩く。

出来る限りの情報を吸収し、四人は図書館があるらしい教会の前に立った。

「効率をあげるため、これからは別行動だ。

シカ、お前は図書館で出来る限り知識を吸収して、後でまとめて俺達に教えてくれ。一般常識、戦闘方法、生態系を重点に頼む」

「あいよ」

「いのは表側で情報収集をしてくれ。民の暮らし、政治、できれば国家の情勢」

「分かったわ」

「ヒナは俺と来い。裏側で情報収集、ついでにちょっと申し訳ないが足がかりに資金収集だ」

「はい」

三人に次々と指示を出す。

ナルトといられると分かったヒナタは嬉しそうだ。

「それから、多分大丈夫だとは思うが無理はするな。集合は十時間後、ここでだ。以上、何か質問は」

「「「ありません」」」

任務のときのように、三人の声が見事に重なった。

苦笑して、ナルトは他二人と別れ、ヒナタと共に歩き出した。


十時間後、日が大分暮れたころ、四人は再び教会の前に集まった。

「成果はどうだ」

「まあまあってとこだな」

「結構興味深いことが分かったわよ〜」

「俺達もそこそこというところだ。手に入れたお金で宿を取った。とりあえずそこで話そう」


部屋についた四人は思い思いに座って、聞く体勢になった。

「まずはシカ」

「おう」

シカマルは図書館で得た情報を話し始めた。

読み書き(既に把握しきっていた)、地理、国家体制、大まかな歴史、

譜業、譜術、武器、魔物、音素、レプリカ、教会についてなど、非情に多岐にわたっていた。

シカマルの話だけで数時間とかかる。

「多いわよ、シカ……」

「一世界の基礎情報だぜ、これでも絞ったんだ。覚えろ」

四人の中で一番頭脳活動が苦手なヒナが唸った。

もちろん、それでも常人以上なのだが。

「よくやった、シカ。これでどういう世界なのかは一通り分かった。次、いの」

「はぁい」

いのが返事して、表側、噂話などから時には忍術を使って得た情報を話し出した。

民はそれなりの生活を送れていること、身分制度はかなり根強いこと、戦争が近いらしいこと、

ここの教会は中立であること、預言というものが絶対的にあがめられていること、商品の流通、物価の目安など。

シカマルよりは短いが、それでもとっくに夜は更けていた。

だが、日ごろより暗部と下忍の二足わらじの彼らにとってはそれでも全然平気だった。

最後に、ナルトとヒナタが集めてきた情報を話す。

裏はそれなりに殺伐としていて、盗み殺しは当たり前であること、なにやら現在の教団の最高権力者、導師イオンは死期が近いらしいこと、

各国でも教団内でも怪しい動きがあること、

あからさまな悪党を狙って小金(いのが調べてきた物価によれば、家一軒程度は建てられるが)を少々手に入れてきたこと。

その間に夜は明けつつある。

「で、どうする」

ある程度情報が揃ったところで、シカマルがナルトに判断をうながした。

「“ルーク・フォン・ファブレ”にはまだ会っていないから、協力をどうするかは保留だ。

ローレライ曰く、目的のそいつがレプリカとして生まれるのはあと一年後、色々ことが動き出すらしいのは八年後。

しかもここは一年が俺達の世界での二年に相当している」

「実質十六年もここにいなきゃいけないわけ?」

「俺達、まだ十三なんだけどな」

「そのローレライとやらにとっては関係ないんでしょ」

少々辛口の評価に、ナルトは苦笑してから先を続けた。

「俺達の肉体は成長しないらしい。戻る分には問題ない。ここで暮らすのにも、俺達には変化があるからな。

精神的にどうのとなってくるとさすがに何もいえないが」

「俺達、とっくに精神は成熟してんだろ。今さらだ」

暗部にいる時点でそこは問題ないと、シカマルが続けた。

それに二人が頷いたのを確認して、ナルトも頷く。

「なら、まずはこの世界で少し生きてみよう。無理やりつれてこられたアクシデントのようなものだが、俺はただ生きるつもりはない」

三人が、大きく頷いた。

「どうせなら、やれることはやってみることにしよう」

「「「仰せのままに」」」

元の姿のまま、三人はナルトに跪いた。

それに、ナルトは嬉しそうに笑った。


「木の葉暗殺戦術特殊部隊第零班、始動だ」