四話


カタン、と何か物音がした気がして、イオンはぼんやりと目を開いた。

死の淵間際の彼にとっては、それだけで体力が持って行かれる。

僅かに映った視界に、見慣れない四人組が見えて、僅かに目を見開いた。

「導師イオンだな。聞きたいことがあって来た。だが、具合が悪そうだな。死期が近いってうわさは本当らしい。凛、とりあえず診てくれ」

「はい」

イオンが口を開くまえに、その四人のうち一人がイオンに近寄る。

何をするつもりか分からなかったが、動けないイオンにはどうしようもなかった。

「どうだ?」

しばらくしてから男は問いかけた。

「見たことのない症状です。体的には何の問題もありません。病気でもない。強いていうなら、幻術による思い込ませに近いものがあるかと……」

若干困惑した様子で凛は告げる。

それに、男は、煌は、ふむ、と考えにふける。

「預言の強制力とやらか」

「多分な。解けそうか?」

慧に同意したあと、煌は問いかけた。

凛はしばらくイオンを見ていたが、顔を上げた。

「本人に生きたいという意思さえあれば、あとは幻術返しの要領で後押しできるかと」

「分かった。導師イオン。俺達は貴殿を助けることができる。貴殿が、生きたいと、心から願うのなら。生きたいか?」

歩み寄り、顔を近づけた煌を、イオンは凝視した。

それは、イオンにとって信じがたいことだった。

今まで導師として預言の強制力の強さを見て来た。

自分が死ぬと疑っていなかった。

でも。

「僕は、生きられる……のですか?」

イオンの頭に大切な桃色がよぎる。

可能性があるのなら、あの桃色を悲しませずに済む方法があるのなら。

ぐ、と拳を握り締めた。

「生きられる。貴殿が望むなら」

「……生きたい……僕は、生きたい……っ!」

しぼりだされた言葉に、煌は満足そうに頷いた。

「分かった。なら、貴殿を助けよう。今死んでも問題は無いか?ここに貴殿の死体はあった方がいいか?」

偽装工作か、とイオンは頷く。

導師としてすべきことも、もう残っていなかった。

「分かった。俺が残る。玲、戻って導師の術を解け。凛、術後の導師に処置を。

慧、変化してこの辺りをうろついて情報収集してきてくれ。何か分かったらすぐ俺に報告」

「「「了解しました、煌様」」」

一斉に跪いたのを見て、イオンは少し目を見開く。

凛がイオンを背負い、玲が幻術でカモフラージュしながら三人は部屋を出た。


夜中に入った頃、煌は宿に戻ってきた。

イオンに付き添っていたヒナタが振り返る。

「お帰りなさい、ナル」

「導師は?」

「解術には成功。体調もまあまあ良好。数日中には起きると思うわ。ナルは?」

「ああ、どうやら導師の死は公にしたくないらしい。ひっそりと埋葬された。たった今土から出てきたところだ」

ぴき、とヒナタに筋が入る。

「……怒るな。死者は埋葬されるのが普通だ」

ぽんぽん、と頭を叩く。

しばらく唸ってから、深呼吸を始めた。

「二人は?」

「風呂。お風呂がこの世界にあってよかったわ。なかったら大変なことになってたもの」

「まあ、そうだな」

土のにおいが落ちないナルトとしても、それは多分に賛成できる意見だった。

宿までかけていた変化を解くと、いのとシカマルが戻ってきた。

「あらナル、お帰り」

「お疲れさん」

いのは頭をふきながら、シカは片手を挙げながらナルトをねぎらった。

「風呂、二つとも空いたわよー。導師サマは私が見てるから、二人とも入ってきたら?」

「そうする」

「ありがとう、いの」

看病を交代して、二人は汗とにおいを落とすために風呂に向かった。


ナルトとヒナタが風呂から出てきたあと、防音の結界をかけてから話し始めた。

「導師のレプリカが作られたらしいが、シカ、その話は聞いたか?」

「ああ。ばっちりとな。今はまだ培養液の中らしいが、近日中に出して、性能のいいものを選んであとは廃棄すると言っていた」

科学者の言葉をそのまま伝えたらしいシカマルが、嫌そうに言った。

他の三人にも剣呑な雰囲気が漂う。

「何それ、何様?」

「レプリカって言ったって人、でしょ?人を何だと思ってるの」

「気に入らないな」

誰からと言わず、視線を交し合う。

互いにそこにある意図を汲み取って、もう一度大きく頷いた。

「じゃ、色々根回しとか準備しないとね」

「めんどくせーが、やるか」

いのとシカマルが楽しそうにいったあと、ナルトに振り向く。

ナルトは少し考えてから、口を開いた。

「シカ、これから数日教会にもぐりこんでその日を調べてきてくれ。当日は俺といのでいく。ヒナ、お前は残って導師の看病」

「了解」

ナルトの出した指示に、シカマルは返事をしてすぐに消えた。

ヒナタといのは、小さく頷く。

それを確認し、ナルトは少し嬉しそうに笑った。


「導師のレプリカ、必ず助けるぞ」