五話


ダアトの教会の譜陣から繋がる場所の近くで、ナルトといのは隠れていた。

「まだかしら」

「わかっているのは今日、ということだけだ。気長にな」

いのが軽く頬を膨らませる。

ナルトは苦笑しただけだった。

二人が火山にこもって数時間、譜陣が動いた。

「待ち人来る?」

「かもな」

それで会話を止め、気配を消して息を潜める。

少しして、次々と人間が現れた。

緑色の髪をした子どもが六人、科学者らしい大人が三人。

「ちっ何で俺達がこんな出来損ないどもの廃棄を請け負わなきゃならないんだ」

「こんなごみどもの廃棄、さっさと終わらせて持ち場に戻ろうぜ」

二人が聞いてられたのはそこまでだった。

子供達が瞬きした瞬間に、科学者達は忽然と姿を消していた。

「えっと、ナル?」

いのが戸惑いながら尋ねる。

ナルトの顔はあくまで無表情、だがその無表情にいのは恐怖を覚えた。

「異空間に飛ばした。後で尋問にかけるぞ」

すさまじく怒っている、といのはすぐに分かった。

ナルトは基本的には寛容だ。

器がとても大きいし、細かいことでは滅多に怒らない。

だからこそ、仲間を傷つけられたときなど、怒った時のギャップが激しい。

その殺気はいの達に向けられたことはないが、その怖さを、いのは身を持って知っていた。

尋問は自分がするんだろうけど、と思いながらいのは敬礼の形を取った。

「了解」


ナルトの気が鎮まるのを待つこと数秒、そのあと二人は子供達に駆け寄った。

「大丈夫か?」

「けがはない?」

子供達の目はどこかぼうっとして、はっきりしていない。

その手同士は、固く結ばれている。

ナルトがいのに目配せした。

「暗示、だと思うわ。多分、効率よく殺すための」

しばらく子供達を見つめた後、若干悲しそうな目をして、ナルトは三人の子供達を抱きしめた。

「大丈夫だ。他の兄弟は必ず俺達が守ってやる。だから、安心して、眠れ」

いのが不思議そうにしていると、ナルトが抱きしめていた三人が急に薄くなった。

少しずつ薄まって、そして光となって空に昇っていく。

肌の感覚がなくなったころ、ナルトは手を離して空を見上げた。

残った二人も、それをなぞるように空を見上げる。

その光が消える直前、言葉が聞こえた。

「あ り が と う」

いのはぶるっと震えて座り込んだ。

ナルトは光が見えなくなるまで、ずっと光を見守っていた。


「ナル、知ってたの?」

子供達が、消えてしまうこと。

しばらく放心状態だったいのは、ようやくそれだけいえた。

「シカから聞いていた。レプリカという存在はひどく不安定で、乖離……分解されやすいらしい。生まれた反動にすら、耐えられないことがあるそうだ」

「そんな……」

「それでもあの子たちは恨んだり、憎んだりは、しなかったみたいだ」

ナルトは残された子の頭を撫でた。

子供達はそれをぼうっとしながら享受している。

「こればっかりはこの世界の摂理だ……俺にもどうしようもない。

俺に、俺達に出来ることといえば、優しいあの子たちが残した、この子達を守ることだけだ」

いのはそれを聞いてから、改めて短い黙祷を、子供達に捧げた。

ナルトはそれを見守っている。

少ししてから、いのは頭を振って立ち上がった。

「さ、帰りましょ!この子達の身の振り方を考えなきゃ!」

「そうだな」

笑って、ナルトは子どもの一人を背負った。


「ただいまー」

「お帰りなさい。導師、目覚めてるわよ」

「本当?良かった」

とりあえず子供達をナルトに任せて(男の子だったこともある)、いのはイオンに駆け寄った。

「どこか変なところはない?解術は上手く出来たと思うんだけど」

「僕は、本当に、生きて、いるですね……」

イオンは泣きそうに顔をゆがめる。

「預言は覆された……僕は、生きている……!」

生を実感しているらしい、イオンはぼろぼろと泣き始めた。

「そうね、生きてるわ。温かくって、涙が出せる。それはきっと、とてもすばらしいことなんだと思う。

泣きたいのなら、思う存分泣いちゃいなさい。生きてるんだから」

その言葉で、部屋に泣き声が響いた。

それは、イオンのものではなく。

「ナル!?」

「どうしたの?」

「……子供達が泣き出した。多分、死ぬのが怖かったことと、同胞が逝ってしまったことの悲しみからじゃないか」

ヒナタが顔を出すと、子どもがナルトにしがみついえわんわん泣いていた。

それは赤ん坊のように、ひたすら泣いていた。

ヒナタは少し筋を立てたが、子ども、子ども、と自分に言い聞かせながら部屋を出る。

それに苦笑しながら、ナルトは子供達を抱きしめた。

「ここにいる。だから、泣きたいだけ泣けばいい。死にたくないという感情も、近しいものが死んで悲しいという感情も、当たり前で、大事なものだ。

そしてそれらは、人間として絶対になくしてはいけないものだ。だから」

ぎゅ、と抱きしめて、空にあるだろう光を想った。


「あの子達の死、どうか悼んでやってくれ」