六話


泣きつかれて眠った子供達をベッドに寝かせて、ナルトは導師のいる部屋に入った。

「意識は?」

「大丈夫です。助けてくださってありがとうございます」

大分泣いたらしい。

赤くなった目元を、ヒナタが冷やしていた。

「気にするな。俺達も用があったんだし」

「そういえば、聞きたいことがあると言っていましたね。何です?助けてくださった礼に、僕に答えられることならお答えします」

それを確認して、ナルトはヒナタに目配せした。

ヒナタは頷いて、持っていた紙をイオンに見せる。

「これを書いたのは、あなたね?」

それは、ザレッホ火山で見つけた紙だった。


大体のことを(異世界のことはとりあえず抜きにして、主にローレライの依頼のこと、ついでに初対面で名乗っていた名前は偽名であることも、一応)

聞き終わったイオンは、ほうっと息をついた。

「未確認第七音素意識集合体のローレライが……にわかには信じがたいですが、そのようなこともあるのですね……」

どうやら納得したらしい。

「僕のレプリカたちも、助けてくださってありがとうございます。少し、心残りではあったんです。作られたレプリカが、どうなるのか……」

そこでふと、といった感じのいのが首をかしげた。

「そういえば、あなたの死期はいつだと預言されていたの?」

イオンは少し考えるそぶりを見せた後、小さく笑う。

「今年中、ですね。それでも、何とか預言に逆らって少しでも長く生きようとして……五年くらいは生きてやると思ってたんですが」

予想以上にはたくましいイオンに、ナルトが苦笑した。

「それで、これからお前はどうする?今のお前は死人、教会からは開放されて自由だ。どこにでも行けるぞ」

その言葉に、イオンは少し考えてから、隣の部屋に視線を向けた。

「貴方達は、あのレプリカたちをどうしようと思っていますか?」

「あの子達か。もう一人の仲間が帰ってきてから、身の振り方を考えようかと思っているが」

その言葉に、イオンはうん、と頷いた。

「僕、あの子達を育てます」

「え!?」

ヒナタが声を上げた。

さすがにその言葉には驚いて、ナルトを目を見開く。

「レプリカは赤ん坊同然ってことは貴方達も知っているでしょう?生きていくためには、知識をつけなければならない。

中身が見た目不相応に幼いのならば、なおさらです」

イオンの言ってることは正論だ。

しかも、それならとりあえずレプリカたちの身の振り方を考えずにすむ。

「あの子達は僕の子どものようなものです。僕が責任持って育てます」

ヒナタはナルトを振り向く。

いのもナルトを見た。

つまり判断を委ねる、ということである。

ナルトは二人の視線を感じつつ、考える。

いずれローレライとの約束を果たせば、ナルトたちは元の世界に戻る。

戻らなければならない。

とすると、当然助けたイオンのレプリカは置いていくことになる。

いずれ別れるのならば、子供達のことを考えても、あまり深入りしないのが得策だろう。

心の中で頷いてから、ナルトはそれを伝えた。

「導師に任せる。大事に育ててやってくれ」

「もちろんです」

まだ若干弱っている様子はあったけれども、イオンはそれでも嬉しそうに笑った。

それから、あ、と声を上げた。

「何だ?」

「もう一つお願いがあるのですが、いいですか?」

「俺達に出来ることなら」

イオンは少し考えるそぶりを見せた後、思い切ったように顔を上げる。

「教団に、アリエッタという、元僕付きの導師守護役だった少女がいるんですが、彼女を連れてきて欲しいんです」

「ふむ、理由は?」

「彼女は僕にとって大事な子で……僕の死を隠すために、導師守護役から解雇されているはずです。きっと悲しんでいると思います。

僕は、あの子を悲しませたくない」

ナルトは答えずいのを見た。

いのは顔に少し笑みを浮かべて頷く。

ナルトはいのに頷き返してから、イオンに向かって頷いた。

「分かった。容姿は?」

「彼女はいつも魔物をつれています。一目見れば分かると思いますが……桃色の髪をした、僕と同じくらいの背の女の子です」

ナルトはまだダアトで動いているシカマルに、その旨を伝える。

すぐに是の返事が返ってきた。

「仲間に伝えた。戻ってくる時に連れてきてくれるだろう」

「ありがとうございます」

イオンはベッドから起き上がった状態のまま礼をする。

「あとは休むことだな。一度死に掛けたことには変わりない。凛、玲、任せていいか?」

「もちろんです」

「どちらへ?」

「ちょっと、な」

イオンの看病とレプリカたちの様子見を二人に任せ、煌は宿を出た。

町からも大分離れ、人気の無い森に入る。

「さて、と。答えろ、ローレライ。全て話せ」

どこともなくナルトは声をあげる。

少しして聞こえた声に、ナルトは険しい声を向けた。

『呼んだか、異界の住人』

「もう一度言うぞ。話せ。お前が隠していたことも含めた全てを」

ぴく、と反応した感触を感じる。

ローレライは知っていて隠していたに違いないと確信する。

逃げ道をなくすため、ナルトははっきりと告げた。


「この世界、歪んでいる」