四話 ケイはすぐさまジェイドの前に立ち、なるべくきつく睨んだ。 「導師はご友人と談笑されている。何の権利があって口を挟んだ」 「私はあなたに聞いていません。イオン様、これはどういうことですか」 ジェイドはケイに目もくれず部屋に入ろうとしたが、ケイはジェイドを遮って動かない。 「ケイの言うとおりです。僕は友人とお話しているだけです。用件は後で聞きます。出て行って下さい、ジェイド」 「しかし」 「導師の命令です」 イオンがきっぱりというと、ジェイドはしぶしぶと引き下がった。 退室際、ルークに軽く目をやっていく。 足音が聞こえなくなってから、イオンは軽く謝った。 「すみません、ルーク」 「いや……ていうかあれ、マルクト軍人だよな?何が何でどうなって……いや、仕事か」 ルークは軽く混乱していたが、やがて落ち着いて、うん、と頷く。 「はい。詳しくは話せませんが……今、彼は僕の部下に等しい立場に当たります。無礼をお詫びします」 「いや、いいよ。でもそろそろ部屋に行って休む。ずっと歩き詰めだったから」 ルークは一礼すると、軽く体を伸ばす。 「無理にお誘いしてすみません」 「気にするな。楽しかったし」 ルークが笑って、イオンも嬉しそうに笑った。 イオンはそれから、ケイに軽く目をやる。 ケイはその視線の意味するところを感じて、頷いた。 「コウ様からも命じられております。ぬかりはありません」 ルークには何のことか分からなかったが、イオンがなんでもないと言ったので特には気にしなかった。 「それじゃ、お休み、イオン、ケイ……さん」 「お休みなさい、ルーク」 「ケイで構いません、ルーク様」 分かった、とルークは頷いてから、イオンの部屋を出た。 深夜、慧はイオンの部屋とルークの部屋の前に立っていた。 イオンの方が本体、ルークの方が影分身だ。 『ほんっとビビッたぜ。いきなりルーク様が現れた時には』 『無事に見つかって良かったわね〜』 『ああ、居場所が分かってよかった』 『エンゲーブなんだって?またバチカルから随分離れたわね』 本体は、他三人と印話している。 慧、シカマルはルークを見つけて、すぐさま報告した。 『擬似超振動とやらには距離は関係ないらしいからな』 『それで、誘拐犯はどうなったの?』 『ルーク様は一人で来たぜ。連れがいる様子でもなかったし……まくか何かしたんじゃないか』 『ナルの教えの賜物ね』 『危険な人間からはできるだけ離れるように教えたからな』 時刻は真夜中。 だが、数日寝なくてもまったく活動に支障は無いように訓練しているので(暗部の都合上どうしてもそうなる)、四人は普通に会話していた。 『それで、ナル、いつごろ来れる?こちらは明日には親書が届いてエンゲーブを発ちそうなんだが』 『明日の昼前には行く。いざとなったら影だけ置いて先に行ってくれ』 『了解。でも、またあいつらからイオン様守んなきゃいけないのか』 シカマルはため息をついた。 いのが同情するように続ける。 『マルクト軍人と導師守護役ね』 『言っても聞かないの?』 『何か俺には凄みが足りないんだよな。言っても流される』 『そうか……』 ナルがふと黙り込む。 三人がどうしたのかと思っていると、少しして口を開いた。 『ヒナ、明日からシカ手伝え』 『え!?』 『マジで?』 二人が驚きの声を上げる。 『シカは押しの強い女に弱いからな。俺も人のこと言えたことではないが……そう遠くないだろう? いの、ケセドニアで偽造でいいから旅券を作って貰って、ヒナに送ってやってくれ』 『了解。出来がいいの、送るわ』 印話の先でいのがウインクする。 シカマルがほっとしたように息をついた。 『サンキュ、ナル。頼むぜ、ヒナ』 『分かったわ。これから、タルタロス出発には間に合う様にエンゲーブに向かうわ』 『ちなみに、今、どこにいたの?』 『グランコクマ。数時間もあれば着くと思う』 本来なら、歩いていくような距離ではない。 しかし、日々何十キロもの距離を駆けていた彼らにとって、その距離はさして問題ではなかった。 『頼んだ、ヒナ』 『ええ』 ナルトの声に、ヒナタは嬉しそうな声を返す。 それから少しの会話をした後、ナルトが終了の言葉を告げた。 『そろそろ解散しよう。何かあったらすぐに教えてくれ』 『『『了解』』』 その言葉を最後に、心話は切れた。 シカマルは佇まいを直し、辺りに気をめぐらせる。 不審者や侵入者はやはりいない。 ルークはすやすやと眠っている。 七歳児らしい様子にシカマルは小さく笑って、気を引き締めた。 ナルトが来るまで、ルークは絶対に守らねばならない。