五話 「あなたの名前は?」 「……」 「名乗る必要はありません」 「だから私はあなたに聞いていないと……」 「大佐が話してるんです。外野は黙っていて下さい」 (外野はお前だ!まじで早く来てくれ、ヒナかナル!) シカマルは心の底から叫び声をあげた。 翌朝、ジェイドは親書が届き次第、エンゲーブを発つと言いに来た。 それにイオンが承諾し、ケイが準備をし始めたところまでは良かった。 だが、ジェイドがいきなりルークの部屋を訪れたのだ。 なぜか導師守護役であるアニスをつれて。 事前に何の連絡も無かったルークは驚いて、対応にどうしようかと思っていた時に、 それに気づいたイオンとケイがかけつけた。 イオンとケイが来たのを見たルークがほっとした表情を浮かべる。 二人はジェイドたちの前に立ちふさがった。 そして、ジェイドはあくまでルークに用があると口を開く。 そして上記の会話にいたる。 イオンとケイがルークの前に立ってルークに話させないようにしている。 ジェイドは段々焦れて来たのか、近くの兵士に何かを命じさせた。 それを見送ったアニスが、かわいらしく首をかしげてジェイドに尋ねた。 「大佐ぁ、何を命令したんですかぁ?」 「それは来てのお楽しみですよ」 ジェイドは楽しそうな顔をしている。 少しして、女性が部屋に現れる。 それに、今まで黙っていたルークが声をあげた。 「あ、誘拐犯!」 「はい?」 「何を言ってるの?」 イオンの困惑の声と、女性の若干怒り混じりの声が重なる。 ケイはすぐさま女性を捕らえた。 「ルーク様、この女が屋敷から連れ出した犯人なのですね?」 「ああ、間違いない。こいつが屋敷に忍び込んで、理由はよくわからないが飛ばされた」 「なっあれは事故よ!私が狙ったのはヴァン!」 女性は必死に弁明する。 顔を顰めたイオンが、嫌そうにジェイドに尋ねた。 「彼女は?」 「昨夜報告しようとしたのですが、拒否されましたからねえ」 ジェイドはイオンの問いにやれやれと言った感じで答える。 それにさらに剣呑な雰囲気になったケイを何とかいさめ、イオンは重ねて尋ねた。 「皮肉はいりません。彼女が誰かと聞いています」 「昨日お会いした、ティア・グランツ響士です。何でも、土地勘がなく、道に迷っていたらしくて……」 「なぜ彼女をここに?」 ケイが手をゆるめずにジェイドを睨む。 「彼女は、そこの――あなた、ルーク・フォン・ファブレですね?が、 どうしてこのような場所にいるのかについての、重要参考人ですから。 ティア、これから昨夜と同じように私の質問に答えてください。」 「俺のこと、知ってんじゃねーか」 ルークの呟きは、ティアの返事によってかき消された。 ティアの返事を聞いたジェイドは、一度めがねを押し上げて口を開く。 「あなたは、そこのルーク・フォン・ファブレと共に、 キムラスカのバチカルからタタル渓谷まで飛ばされた。間違いありませんね?」 「はい」 ティアは素直に頷く。 その様子に、またケイは剣呑な雰囲気を募らせた。 ジェイドはそれに気づかず質問を続ける。 「それで、原因は?」 「擬似超振動です。私と彼の間でそれが起きて、そのタタル渓谷だろう場所に飛ばされました。 目覚めたとき、彼は傍にいませんでしたが……」 それに、ルークは興味なさげに返した。 「当たり前じゃん。先生に、危険人物からはなるべく離れろって習ってたから、 俺、先に起きてあたりに隠れてたんだ」 「危険人物って……!」 ティアがルークを怒ろうとケイを振りほどこうとする。 だが、ケイはびくともしなかった。 「離して!」 「動くな誘拐犯」 「だからそれは誤解だと……」 「加害者が何を言っても言い訳だ。事は被害者の証言に依存する」 分からないとわめくティアに、ケイは僅かに殺気を向ける。 だが、ティアはそれに気づかず、叫び続けた。 ジェイドがルークから目を離さずに命令する。 「ケイ、彼女を放しなさい」 その言葉にティアは嬉しそうな顔をしたが、ケイは無表情のまま答えた。 「なぜお前が俺に命令する。俺に命令する権利があるのは、ここでは二人だけだ」 ケイが、ちらりと視線をイオンとルークに向ける。 その意図を汲み取って、イオンが頷いた。 「ケイ、絶対に彼女を放してはいけません」 「イオン様、どうして!」 「先ほどの経緯からしたら、当たり前の処置です。あなたは国家反逆罪人です。 僕の一存で処遇を決めるわけには行きません。キムラスカに送って裁いてもらわなくてはなりません」 最後の望みだったイオンにも拒絶されて、ティアはその矛先をルークに向ける。 「私は何も……!ルーク、あなたも何か言ってちょうだい!」 もちろんルークはティアに何かしてやる義理も何もないので、首をかしげただけだった。 「何で俺が」 それにティアが、なぜかアニスまでもが反論しようとしたとき、しばらく考えていたようだったジェイドが高らかに告げた。 「誰か、そこの不法侵入者を捕らえなさい!」 「な!?」 これにはケイもイオンも驚いた。 ルークはぽかんとするばかりだ。 ティアとともにやってきていた兵士が、躊躇いながらも足を踏み出す。 ケイが止めようとしたとき、“彼”は現れた。 「ルーク様に近づくな、無礼者ども!」