一話


「お待ちしておりました、導師一行」

ナタリアが、港で、恭しく礼をした。


イオンを城へ案内しながら、ナタリアはこれからの手続きについて説明した。

「長旅でお疲れでしょう。今日は我が城でゆっくりお休みなさいませ。

お話は、翌朝始めることに致しましょう」

「お気遣いありがとうございます」

話の間、民が歓迎で歓声を上げているほかは、全くの声が無かった。

昇降機で上階に上がった先には、城とファブレ邸があった。

ファブレ邸の前で立っていた男が、イオンに近寄る。

リンがすぐさま前に立ったが、男は数歩前で立ち止まった。

男はファブレ邸の執事であると名乗る。

「ルーク様の遣いで参りました、導師イオン。

差し支えなければ、我が家にご招待したいとのことです」

「招待ありがとうございます。お伺いさせていただきます」

当たり前のように、ケイとリンはイオンに付き従って行った。

リンが去る途中、ナタリアはその背に一声かける。

「リン“お姉さま”、後でお伺いしますわ」

リンは小さく頷いて、それに答えた。


「イオン、久しぶりだな」

「ええ、元気そうで何よりです、ルーク」

応接室でイオンを迎えたルークは、メイドに茶と菓子を用意させた。

その様子を見たイオンは苦笑する。

「構いませんのに……」

「イオンは十分に賓客だからな。これくらいはしないと」

やがて、メイドが茶菓子を持ってきて、下がった。

それに手をつけようとしたルークが、気づいたように顔を上げた。

「ああ、先生も楽にお話していて下さい」

「ケイと、リンもです。お久しぶりなのでしょう?」

イオンも続けて許可を出す。

三人は礼をして、部屋を出た。

そこで、コウが結界を張って。

「ナル、本当に久しぶり!」

「ああ、もう随分と会ってなかったからな」

「あ〜、ほんと疲れた」

「お疲れ様、シカ」

声に出して、互いの本名を呼んだ。

ついでだからといのと印話を繋ぐ。

『いいなぁ、そっち三人集まってるの?』

『まあ、流れの都合上』

『ずるい……』

うらやましそうに言ったいのを、シカマルが苦笑しながら宥める。

『ふてくされんなよ、いの』

『ふてくされてませんーっ。

それで、最近そっち忙しそうだったけど、ヒナが加わって、導師サマ一行は何か改善した?』

『したなんてもんじゃねえよ。もうヒナさまさまだ』

シカマルがしみじみという。

ヒナタが得意そうに笑った。

煌がルークを連れてバチカルに帰り、凛が一行に加わった後、

凛は一行の改善に全力を注いだのだ。

まず、何を言っても導師守護役としての認識を持たないアニスは、

途中でイオンに強制送還してもらった。

本来ならもっと導師守護役を、それも大勢派遣してもらうべきところなのだが、

ダアトにその旨を通達したところ、誰が行くかで争いになり、

立場上それを決められる導師も大詠師も不在のため混乱がおき、

選抜が出来ないとの返事が返って来た。

仕方がなく、リンとケイで護衛を続け、その大詠師がいるバチカルで、

改めて導師守護役交代の要請をすることになった。

ちなみにこのとき、リンはケイの肩を、ねぎらうように叩いている。

次にジェイドだが、こちらもいくら言っても聞かなかった。

しかし、和平を申し込んできているマルクトの使者であるため、

追い返すことも出来ず、とりあえず放置ということになった。

ナルトに関する暴言を吐くたび(本人に自覚はない)、ヒナタに攻撃を食らっていたため、

(一応世間体を考えて最初の一撃以降は言葉攻め)多少は控えるようになったが。

『おかげでものすごく旅が楽になった。まず俺のストレスが激減した』

『シカは押しが弱すぎるのよ。

あのありえない集団、私がいなければ、導師がバチカルに着くまでに胃を壊されてたわよ』

『う…っ』

言い返せないシカマルが言葉に詰まる。

『そんなに言ってやるな、ヒナ。

俺だってあいつらを押し切って説得するのは難しいだろうから』

見かねたナルトが助け舟を出す。

ヒナタがしぶしぶ引き下がったことで、シカマルが安堵の息を吐いた。

『それで、これからどうするの?』

話を切り替え、いのがこれからの方針について切り出す。

『ルーク様が、“預言”の孕んでいる矛盾に気がつき始めた』

『『『……』』』

ナルトの言葉の意味を汲み取って、他三人が口をつむぐ。

『だがアクゼリュスにはおそらく行くことになるだろうな。

色々と周りの目がある。俺は何とかして同行するつもりだ』

『ナルのことだから崩落については心配してないけど……その後、どうするの?』

『俺の今の主はルーク様だから、ルーク様の意思が最優先になるか。

このあと世界規模のゴタゴタが山ほどあるが……

ルーク様が“何を”救いたいかで、その後の動きが変わってくる』

ローレライから聞いた“ゴタゴタ”は山ほどある。

七年かけて根回し下回しは多くしているが、終わるまで安心は出来ない。

『まずはアクゼリュスだ。先ほど言ったように、俺はルーク様に同行する。

シカは帰還する導師について、ダアトに戻れ。

敵側について何かわかったら逐次報告。“あいつら”にもそう連絡を回してくれ』

『了解』

『いのは引き続きケセドニアで情報収集とイオンたちの警護だ。

これから第七音素の動きが活発になる。とくにフローリアンからは目を離すな』

『分かったわ』

『ヒナは、一行改善もとりあえず終わったし、俺が加わるから、

マルクトに戻って、先行して皇帝に謁見してくれ。確か、顔見知りになったんだよな?』

ナルトがそういうと、ヒナタはちょっと嫌そうな顔をした。

『あの王に会うのね……ちょっと気が進まないけど、あなたが言うのだから……行くわ』

『ありがとう。とりあえずの当面の動きは以上だ。

これからが本番だ、各自決して気を抜かないように』

『『『了解』』』

『解散』


ナルトのその言葉で、印話のつながりは切れた。