N×D小話2


3.論争


ぎゃいぎゃいぎゃい。

食堂に騒がしい声が響き渡る。

何人かが静かにしろと手を伸ばしかけたが、その声の中心人物たちを見て、その手を引っ込めた。

遠巻きに眺める観客の中に、アレンとリナリーが混じっている。

二人は生温かい視線を騒ぎの方に送っていた。

微妙な雰囲気の中、口喧嘩は続く。

「麺類は蕎麦だ!蕎麦以外認めねえ!」

「麺類と言えばラーメンだろ!蕎麦もあるが、やっぱりラーメンが麺類の代表だろ!」

と、低レベルな論争を繰り広げているのは、エクソシストの一人、神田ユウと、

諸事情の末、エクソシストに加わった異界の住民、うずまきナルトだった。

二人の間には、原因の蕎麦とラーメンが鎮座している。

「さらりとした喉越しの蕎麦を、

あっさりとしたしかし深い味を持つ麺つゆに漬けることによって生み出されるこの味わい、

ラーメンなんかじゃ到底味わえないだろ!」

「ラーメンを馬鹿にするな!

様々な味の中から一つを選び取り、その味に合わせて細かく具を足していく……

一つ間違えてしまえば全て損なわれてしまう、しかし全てが上手くかみ合った時に、

至上の調和を生み出す!ラーメンこそが麺類の真髄だ!」

「何だと!?」

「何だ!」

今にも互いの武器を抜きそうなほど険悪な雰囲気なのだが、

会話の内容が、どうにも周りの緊張感を殺いでいる。

「うっす、悪いな、騒がして」

観客の中にいたアレンたちを発見したらしい。

少し離れたところから、シカマルが歩み寄ってきた。

「大変ですね」

「ふふ、でも、意外と子供らしいところもあるのね」

心労が見え隠れするシカマルに、アレンとリナリーが笑う。

リナリーの言葉に、シカマルも苦笑した。

「ナルは基本的にクールなんだけどな。どうにもラーメンには思い入れが深いみたいで」

「いいじゃない。そういう夢中になれるものがあるって、幸せなことだと思うわ」

「リナリー、それ、神田にも言ってます?」

アレンのやや笑いをこらえた質問に、リナリーが首をかしげながら答えた。

訳が分からないリナリーに、シカマルが補足を入れてやる。

「十三歳のナルと同レベルってのはどうかって話だよ」

シカマルはため息をつきながら、止めるのは自分の役目だろうな、と呟いた。


4.キッチンの帝王


「だからね、ここでこの味を足してやって……」

「なるほどね」

「じゃあ、こういうときには?」

ラビが食堂に入ると、キッチンからやや声が多めに聞こえてきた。

その食堂の片隅に、ナルトとシカマルが何やら話し合っている。

どうやらキッチンにいるのは、彼らの仲間の少女二人らしい、とラビは推測した。

「よーう、何してるさ?」

「よ、ラビ」

「任務帰りか?お疲れさん」
「ん、まーな」

ラビがかけた声が終わる前に、二人は振り向いていた。

ラビが来たことには気付いていたらしい。

挨拶を交わしてから、二人はラビの質問に答えた。

「ヒナタといのが、ジェリーさんに料理教わってるんだ。ほら、あの人レパートリー半端ないから」

「あ、それは言えてるさ」

何でも作れるという言葉が嘘ではないことを、ラビも身にしみて知っている。

「食材も俺らのところと大差ないから、自分達でも作れるはずだって。

もう三時間キッチンで奮闘中」

「そんなに!?ジェリーさんも付き合いいいなあ」

「全くだ」

「で、二人は何してるさ?」

なにやら話し込んでいたようだが、それだけなら食堂にいる必要は無いだろう。

二人を待っているのだろうか。

そう聞くと、二人は若干微妙な顔をしながら頷いた。

「試しで作ってみるから、試食して欲しいんだとよ」

シカマルの説明もため息混じり。

ラビは疑問に思って、続けて尋ねた。

「何でそんなにへこんでるさ?」

四人は自活しているらしく、少女二人が調理担当だというのもラビは知っている。

一度彼女らが作ったお菓子を食べさせて貰ったが、至って普通、美味しいくらいだった。

だというのに、二人の表情はどこか暗い。

その時、ちょうどキッチンの方から歓声が聞こえてきた。

それからすぐに、少女二人がお皿に試作品らしいそれを乗せて小走りにやってきた。

「あら、ラビ。任務帰り?」

「ちょうどよかった、これ、ジェリーさんから教わって作った試作品なの。

ラビも食べてみてくれない?」

ラビを見つけ、二人が微笑む。

ラビは二つ返事で了承した。

ナルトとシカマルが、小さく小さくため息をついた。

「それじゃ、頂くさ〜」

「どうぞ」

見目も美しいそれは、いかにもおいしそうだった。

二人が表情を暗くする理由が分からない、とラビはその試作品を口に入れる。

入れて。

固まった。

「〜っっ!?!?!?」

ラビが声にならない悲鳴をあげる。

ヒナタといのはにこにこと笑ったままだった。

ナルトとシカマルも同じようにそれを口にし、少しだけ息を漏らした。

それから何事も無かったかのように微笑む。

シカマルの方は、やや引きつっていた。

「ヒナ、油と、火にかける時間を減らしてくれ。それから、塩多い」

「いの、この二つは付け合せるな。合わないぞ。

単体なら……もうちょい味を控えめにしたら……多分いける」

二人の感想に、ヒナタたちはなるほど、と頷いた。

それからあれこれ言い合ったあと、二人はふとラビに矛先を向ける。

「ラビは?何か感想、ない?」

ラビは口を押さえたまま、体をくの字に曲げて震えていた。

それを見ながらナルトはさりげなく二人からラビを隠した。

シカマルはラビのために水を取りに行った。

「辛かったみたいだな。舌がひりひりするらしい。もう少し辛みを抑えたほうが美味くなるぞ」

「ラビ、辛いものダメだったの?」

ナルトの後ろで、ラビは必死に頷いた。

二人はふうん、と言いながら、改良を重ねるといってキッチンに戻って行った。

入れ替わるようにシカマルが戻ってくる。

シカマルが差し出した水(ボトルまるまる一つ)を、ラビは一気に飲み干した。

それから何度か荒い呼吸を繰り返してから、ラビはようやく言葉を発した。

「なん、なん、何さ、あれ!?食べ物!?」

死ぬかと思った、というラビに、ナルトとシカマルがやや遠い目をした。

「二人は創作料理が好きでな。しょっちゅう作るんだ。で、味見は俺たちがやるんだよ」

「改良を終えた後なら、美味いのを何回でも作れる。問題は、改良途中だ。

たまに毒物入ってんじゃないか、と本気で思うからな」

日ごろから毒に耐性をつけているはずだというのに、と二人は小さく呟く。

ラビの顔から一気に血の気が引いた。

「安心しろ。本当に毒物が入ってるわけじゃない。材料はあくまで食材だ」

「食材だけからなんであんなものが生まれるの方が不思議さ……」

それからラビは、遠くを見るような目つきでキッチンを見た。


キッチンからは、まだ料理(?)の音が聞こえている。