N×D小話3(シリアス)


5.魂の叫び


ナルトの体調が回復し、ナルトたちは四人で、ある意味初任務に出ていた。

色々教団の勝手などを教えるために、リナリーも同行している。

「この辺で、アクマの目撃情報があったんだな?」

「ええ。アクマは、見つけ次第破壊して。少しでも犠牲を減らせるように」

アクマが大量に出現している、というファインダーからの報告を受けたのだ。

それには、四人がどこまでやれるか、という実験的な意味合いも含まれている。

五人が警戒している中、ナルトが急に気配を揺らした。

ヒナタたちが疑問に思って振り返る。

「ナルト、どうしたの?」

ナルトはやや表情を固くしたまま、あたりを見回す。

すると、アクマが大量に現れた。

「アクマよ!気をつけて!」

リナリーがイノセンスを発動させて、アクマの群れに飛び込む。

ナルトは、やや目を見開いた。

「これが、アクマ、か?」

こちらに来てから、ずっと森にこもっていたナルトは、初めて見たアクマに小さく呟いた。

しかし、異形のものを見ただけでは、冷静なナルトはそうそう驚かないと思われていた。

それを知っている三人は、心配そうにナルトを覗き込む。

「ナルト、具合悪いの?」

「具合が悪い、というより……」

ナルトは双闇を構える。

イノセンスが融合したそれは、薄く発光した。

「気持ちが、悪い」

と、次の瞬間、一足飛びでアクマの群れに飛び込んだ。

それが戦闘開始の合図だと思ったヒナタたちも、

同じように武器を取り出して、アクマの群れに飛び込む。

アクマは程なく殲滅された。

「想像以上ね……本当に強いのね、貴方達」

リナリーがイノセンスの発動を解き、感心したように息をついた。

が、顔色の悪そうなナルトを見て、今度は心配そうに言う。

「どうしたの?」

「リナリー、確かアクマとは、死者の魂を内臓し、

無理やりエネルギー源として酷使しているもの、だったな?」

まったく顔を向けずに口を開いたナルトの問いに、リナリーが戸惑いながらも頷く。

「え、ええ」

「その死者の魂は、まだ意志があるものなのか?」

リナリーはまさか、と思いながら答える。

「アレン君は、アクマに内蔵された魂が見えるらしいの。

彼は、魂は抵抗する力こそないものの、無理やり動力源にされて……

悲鳴を上げていると言ってたわ。まさか、あなたもアクマに内臓された魂が見えるの?」

リナリーが尋ね返すと、ナルトはゆっくり首を振った。

「姿が、見えるわけじゃない。ただ、感じる。凄まじい憎悪と悲哀の念を」

辛そうに言うナルトに、ヒナタが心配そうに寄り添う。

ナルトはそれに気付いて、小さく微笑んだ。

だが、それは無理をしているのだと、四人には分かる。

ヒナタが、たまらなくなって、ナルトに抱きついた。

ナルトはその背を撫でながら、小さく呟いた。

「……あんなものを、作る者の気が知れない」


6.救済


初任務を終え、ナルトたちは教団へと戻ってきた。

ナルトは、少し落ち着きたい、と一人で屋上へと登る。

そこで、吹く風に晒されて、ナルトはぼんやり夕陽を見やった。

それから、己の内の、九奈に話しかける。

(九奈も、感じたか)

『ああ、非常に、不快だった』

(俺もだ)

仲間に言ったように、その感覚は、気持ちが悪い、に近い。

吐き気を催すような、それだ。

(千年伯爵とやらは、何のためにあんなものを造るんだ)

『世界を滅ぼすためではないか?』

(世界って、何だ。奴は“何”を滅ぼしたいんだ?

人を皆殺しにしたところで、それは世界を滅ぼしたことになるのか?

そんなことに意味があるのか?)

理解できない、とナルトは言葉に出して呟く。

それから背後に向けて。

「お前も、そうか?」

と、尋ねた。

ナルトの背後にいた、アレンが答える。

「……リナリーに聞きました。あなたも、アクマを感知することができると」

「感知……確かにそうだな、それが一番近いか」

ナルトは納得したように頷く。

実際、異形の形を認識するならば、ヒナタの白眼の能力が一番優れている。

ナルトが感じたのは、アクマに内蔵されている魂そのものだ。

それは、ヒナタには見えないらしい。

「あなたは、アクマをどう感じました?」

「……たとえるなら、此の世の全てに絶望した、孤独な者の断末魔」

その表現に、アレンは少し目を細めた。

「僕に見える魂も、似たような感じです」

アレンはナルトに並ぶ。

「彼らは、自らの意志に関わらず、アクマの動力源にされています。

それを救えるのは、僕たちが持つイノセンスだけです」

アレンは自らの左手を握り締める。

その赤い手を、ナルトは少しだけ見やった。

「お前は、生まれつきイノセンスを宿しているんだったな。

そのことを、恨んだり悲しんだりしたことは、ないか?」

ナルトが聞くと、アレンは不意を突かれたような顔をした。

その様子に、逆にナルトが僅かに驚く。

「考えたこと、ありませんでした。僕にとってこれは、当たり前のことでしたから」

「……なるほど、生まれた時からのことは、当たり前、か」

ナルトが頷く。

それから、アレンが続きを話そうとしているのを見て、視線を向けた。

「僕は、この腕に、感謝しているくらいです。

“これ”は、僕にアクマに内蔵する魂を、救済する力を与えてくれた」

「救済……」

アレンの言葉を、ナルトが復唱する。

「はい。僕だって、やるせない気持ちではあります。

ですが、彼らはもう一度死んでしまった身。

そして死んでからも、この世に囚われている身。

死んだ者は生き返らせられない。ならせめて、安らかに、逝って欲しいと……そう思っています」

アレンの、決意の言葉を、ナルトはゆっくり飲み込んだ。

それから、そうか、と呟き、その場所を離れていく。

それを見送るアレンに、ナルトは背を向けたまま、一言だけ残した。

「俺も、やれることをする」


それからナルトは、零班とともに、アクマの研究を始めた。