T×A×G 小話集


・今は遠き地より、懐かしい思いを


「これを」

「……封筒?」

「お前の仲間達から、預かってきた」

「!!」

「俺たちはもうここには来ないだろうから……返事は渡せない。悪いな」

「いや、ありがとう……ほんとに、ありがとな」


「……」

「夕君?どうしたの?」

「夕、どうしたアルか。外で誰かに苛められたアルか?」

「っ!」

「夕、君?」

「苛められたなら相手言うネ。あたしがけちょんけちょんに伸してきてやるヨ」

「ちがう……ちがうんだ……でも……っ!!」

「泣きたいなら、泣いとけ」

「銀ちゃん!」

「泣いて泣いて、その時に言いたいことがあるなら、いくらでも聞いてやるから」

「っうっうわあああぁぁぁ!!!」


・今は遠き地へ、遥かなる思いを(1)


「手紙、ルークに届いたでしょうか……」

「さあな。あの連中が手紙を紛失でもしなけりゃ、届いてるだろうが」

「……」

「まあ、届いてるだろうさ」

「……あの手紙に込めた思いも、届いてるでしょうか」

「あいつもそれほどバカじゃないだろうよ。

あれで届かないってんなら、何が何でも、一つ殴りにいくところだ」

「ふふっあなたなら本当にしてしまいそうですわ」

「……ふん」

「そういえば、あなたは手紙にはなんと?」

「大したことじゃない」

「届くかも定かではない異界の相手に送る手紙は、大したことはないんですの?」

「……約束を」

「え?」

「約束を破ったことを、叱って……詫びた。それだけだ」

「まあ。それでは私と同じですのね」


・安らぎの場所


「夕君、泣き疲れて眠っちゃったみたい」

「目が腫れそうアルな」

「寝かしとけ。ほら、布団敷いたから」

「はい。どうしたんでしょうか、夕君」

「何かあったことだけは確実アル」

「お前ら、それ、夕に聞くなよ」

「え、何でアルか」

「話したいことなら夕が話すだろ。話したくないことなら、聞かない方がいい」

「……僕、こういうときだけ銀さんは年上なんだなあって感じますよ」

「おいおいおいおい、なんでこういうときだけ?銀さん普通にお前らより大人なんだけど」

「銀ちゃんは普通に子供だからヨ」

「神楽まで……」

「……銀さん、僕、今日泊まって行くので、姉上に連絡して来ます」

「何でそんな風に……あ?」

「夕君が起きたら、すぐに声をかけられるように」

「あたしもそれ賛成ネ。みんなで目いっぱい夕を甘やかそうヨ」

「……そうだな、子供は目いっぱい甘やかしてやんないとな」

「決定ネ」

「じゃあ、電話お借りしますよ」

「おう」

「ゆーうー」

「神楽、起こすなよ」

「分かってるネ。ゆーう、いっぱい寝るがヨロシ。そしたらいっぱい話そう。

いっぱい食べよう。そして、一緒にいっぱい笑おうネ」


・今は遠き地へ、遥かなる思いを(2)


「はあ、何だか気が抜けちゃったねー」

「そうね……肩の荷が少し、下りた感じ」

「帰って来れないって、分かっちゃったもんね」

「ええ……生きてるって分かって、とても嬉しいのに……

二度と会えないって分かって少し楽になるなんて……勝手かしら」

「いいんじゃない?別にルークは責めたりはしないと思うけど」

「そう、かしら」

「そうそう。ルークだって、いつまでも引きずって欲しくなかったんじゃないかな。

だからあの人たちに手紙を託したんじゃないの?」

「手紙……私の言葉、届いたかしら……」

「きっと大丈夫だよ。ルークは確かに世間知らずだけど、そういうところはしっかりしてるんだから」

「そうよね……私達が、それを信じてあげないと」

「そうそう」

「アニスは強いのね」

「そんなことないよ。ティアの方がずっとずっと、強いよ……」

「アニス?」

「……ルークーっ!!」

「!?」

「せっかく生き延びたんだから、精一杯生きてよ!じゃないと怒るからねーっ!」

「びっくりしたわ。アニスったら、いきなり叫びだすんだもの」

「えへへ、何だか言いたくなって。ティアも言ってみたら?結構すっきりするかもよ」

「そ、そんな大声で……?…………ルーク!」

「お、何を言うのかな?」

「あ……ありがとう!!」

「ありゃ。……まあ、ティアらしいかも」

「そうかしら」

「うん。ティアの声、きっとルークに届いてるよ」

「ええ。アニスの声もね」


・心のありか


「……」

「手紙、か」

「うわ!……ぎ、銀さん?」

「隠れて読むなら、もっと見つからないところに隠れろ」

「……聞かないのか?」

「うん?」

「その、色々……」

「聞いてどうする?」

「え?」

「お前の事情云々を聞いたところで、俺にゃ関係ない話だろ」

「……」

「でもな」

「?」

「ここはお前の家だ。それだけ覚えとけ」

「……うん、ありがとう、銀さん」

「礼を言われるようなことをした覚えはねぇな」

「……ははっ」

「ん?なんだよ」

「銀さんらしいなって」


・今は遠き地へ、遥かなる思いを(3)


「ジェイド、ちょっといいか」

「おや、ガイ。どうしました、こんな夜更けに」

「今夜は月がきれいだろ?月見酒でもどうかと思ってね」

「それはそれは。お誘い感謝します。どうやらなかなかの銘物のようですし、一杯頂きましょうかね」

「よしきた」

「……」

「……なあ、ジェイド」

「ルークのことですね」

「……言う前に言うなよ。さすが、お見通しか」

「このタイミングで、あなたがルーク以外の話題を出すはずがないでしょう」

「ははは。……いやな、あいつが、こことは違う世界で、生きているって聞いてさ……

正直、手紙に何て書けばいいのか、相当迷ったんだ」

「まあ、普通に考えればありえない話ですからねえ。

私も、ルークの直筆の手紙がなければ、彼らを不審者として拘束していましたよ」

「そうだよな。まさか、そんなことが起きてるなんて……考えもしなかった」

「そういうものでしょう?」

「うん?」

「どこで誰が何をしてるのか。それを全て知るには、この世界だけでも広すぎるというもので

ましてやそれが全く別の世界となると、私達には知りえないでしょう」

「……」

「ですから、あと私達が彼にしてやれることと言えば、

生き延びた彼の幸福を願うことくらいじゃないでしょうか」

「……ジェイドにしては、非科学的な意見だな」

「私も年を取ったもので」

「よく言うよ。でも、そうか……そうだよな」

「……」

「せっかく生き延びたんだ。今度こそ、目一杯幸せになってもらわないとな」

「ええ」

「ああ、今日はとことん飲みたい気分だ。つきあってくれるかい、旦那」

「残念ながら、酔っ払いの介抱は引き受けられませんよ」

「サンキュ」


・遠い空の下でそれぞれの幸福を


「よーし、仕事終了ー。帰るぞおめーら」

「はい」

「ウン」

「ああ」

「はー、疲れたあ。でも何だか、仕事したって気がするね」

「これで給料もらえるアルか」

「もらえなきゃ抗議しようよ」

「……」

「どうした、夕」

「平和だなあって」

「何年寄りくさいこと言ってんだ」

「え、年寄りくさい?」

「おお、爺さんのようだぞ」

「げ」

「ははは」

「銀ちゃん、夕、何話してるアルかー」

「銀さん、夕君いじめちゃだめですよ」

「いじめてねーよ!お前らはオレを何だと思ってるんだ」

「天パのプー」

「ダメ経営者」

「おぉい!?」

「……ぷっ」

「あ、夕が笑った!」

「夕、お前も俺の敵か!?」

「銀さんの敵は不景気じゃないか?」

「おお、夕君、なかなか鋭い発言」

「じゃあ世の中敵だらけアルね。もうずっと不景気ヨ」

「なかなか景気はよくならないよねー」

「ありがとう」

「うん?」

「なんで?」

「唐突に、すごく言いたくなった。ありがとう、銀さん、神楽姉、新八兄」

「……」

「よく分からないけど、どう致しまして」

「でもお礼言われると嬉しいネ」

「今更、だ」

「へへっ」

「さー、とっとと帰って、メシ食うぞ!」

「そういやお腹空きましたね」

「もうお腹ぺこぺこヨ」

「……俺、頑張るから。頑張って生きるから。だから、心配しないでくれな。それから……」


「ありがとう……」


「おら、夕、行くぞ!」

「……ああ、今行く!」


(ありがとう、全ての大切な人たちへ)