なんだか眠った気がしない朝の目覚めを体感しながら、のそりと起き上がった。

子供は相変わらず、昏々と眠り続けている。

若干その表情が和らいでいるらしいのが救いか。

額に手を当ててみれば、熱も多少は下がっている。

看病の甲斐はあったらしい。


少しした頃、新八がやってきた。

俺が起きていたのに驚いたようだが(失礼な。普段のことはとりあえず棚に上げておく)、子供が起きるかもしれないからと、粥を頼む。

すぐさま了承して、台所に向かった。

子供をもう一度見やってから、タオルを取り替えようと、俺も立ち上がって部屋を出た。


朝食も出来たので神楽を起こしにいき、とりあえず朝食を取っている頃、和室から呻き声が上がった。

全員で顔を見合わせて、誰ともなく忍び足で和室に向かう。

子供の顔を覗き込んでいると、急に子供が目を開いた。

やはり、天人のようだ。

その瞳の色も、この星にはなじみが無い。

一人納得していたのだが、子供は何の反応も無かった。

おいおい、無反応かと口に出そうとした瞬間。

子供は俊敏な動きで布団から抜け出して、壁際に走った。

いきなりのことに驚いて、思わずそれをゆっくりと眺めてしまう。

しばらく相対して、ようやく子供が一言。

「だ、だれ……?」

ま、目覚めて知らない顔が並んでたら、そりゃ警戒するよな。

よし、とりあえずそれなりに普通の神経をお持ちのようだ。

「俺ァ、坂田銀時。ここは江戸の万事屋。俺の家。んで、雨の中ぶっ倒れてるお前を拾ってきた」

状況を説明してやると、あ、といわんばかりの顔をした神楽が、身を乗り出した。

「私、神楽!お前の名前は何アルか?」

「僕は志村新八。とりあえず目を覚まして良かったよ」

二人とも続いて自己紹介する。

それに子供がどんな反応を返すのか見ていたのだが、返って来たのは予想だにしていなかった言葉だった。

「エドって……どこの国?」

「……は?」

こてん、と子供らしく首をかしげた子供に、三人とも固まることになった。


とりあえず腹が空腹を訴えてくるようなので、とにかくご飯を食べて、と粥を食べさせた。

粥を食べたことがないらしい子供は、最初こそ不思議そうに眺めていたけれど、

空腹には勝てなかったのか、一口口にすれば後は次々と口に運んでいった。

とりあえずご飯を食べてくれたことにほっとして、俺たちも食事を進めた。


片づけも終え、日も十分に昇ったころに質問タイム。

「とりあえず、こっちから聞きたいことを聞いてもいいか?」

聞くと、子供は頷いた。

さて、何から聞くべきか。

「名前は?」

考えていると、神楽が先に口をだした。

そういやさっきも聞いてたっけな。

そして視線を子供に移せば。

何ともいえないような、複雑な表情をしていた。

とても、幼い子供のする顔とは思えない。

昨夜の寝言が頭に浮かぶ。

嫌な予感が連鎖するのを振り払うように、小さく首を振った。

そして、子供が搾り出した返事は。

「無い」

その言葉には、どれだけの意味と思いが込められていたのか。

俺たちにはそれを推し量ることは出来ないが、おそらく、その言葉を搾り出すために、

子供は相当の葛藤をしたのだろうということだけ、俯いてしまった子供の顔から想像できた。

何やらいけないところに踏み込んでしまったらしい。

互いに顔を見合わせて、今度は新八が尋ねた。

「それじゃ、お父さんとかお母さんとか……保護者の人は?」

「……いない」

それはまだ速い回答だった。

しかし、その“いない”とは、両親が既に亡くなっているのか、はたまた分からないのか。

どっちにも取れる。

三人で、また気まずく顔を見合わせた。

二人が視線を向けてくるので、仕方なく今度は俺が質問した。

「どこから来た?地球じゃ見かけない色してるから、天人だとは思うが」

子供は、それには単純に首をかしげた。

「ちきゅー?……あまんと?」

それから、三人でばっと集まって、小声で会議を始めた。

「地球や天人を知らないって、どういうこと?」

「天人って呼んでるのは地球人ネ。私たちは別に違う星の種族のことをそんな風には呼ばないヨ」

「じゃあそれはいいとして……あのガキ、ここがどこかもわかってないみたいだな?」

「他の星からつれてこられた、とか……?」

「宇宙船にしがみついて来たのかもしれないヨ」

「そんなんできるのはお前だけだ」

こつん、と軽く叩く。

だが、考え方はいいと思う。

「どうやってここに来た?」

ここがどこか分からないというなら、どうやって地球に来た。

くるりと振り返って尋ねてみれば、子供は記憶を辿るようにうんうんと唸っている。

それをしばらく見守って、子供がひねり出した答えは。

「分からない」


……正直、泣きたくなった。


何も無い子供
(名前も、住みかも、家族も、何も分からないなんて)