もそり、と隣の人間が身じろぎをした気がして、目が覚めた。

覚めたといっても、ぼんやりしたもので、まだ思考がままならない。

とりあえず、起きたかもしれない隣の人間に目をやってみる。

「え、と……?」

やはり起きていた。

そして、今現在の状況に戸惑っているらしい。

「みんなで昼寝してんだよ。温かかっただろ、夕」

「あ、うん……え?」

思わずといった感じで頷いてから、夕(仮)は首をかしげた。

「夕。俺たちがお前に適当に名前つけたんだけど、どうだ?」

嫌ではないかといった意味を込めて聞いてみる。

夕(だから仮)は何回も、自分につけられたらしい名前を復唱していた。

「ゆう、ゆう、ゆう……」

その声を聞きながら徐々に目を覚ます。

「そ、夕。夕陽の夕な」

補足を加えると、夕(まだ仮)は嬉しそうに笑った。

「夕陽……俺の、名前……」

「嫌じゃないか?」

「嫌じゃない!うれしい!えっと、ありがとう!」

聞くと、夕(決定した)は跳ねるように顔を上げて、お礼を言ってくれた。

よし、気に入ったようだ。

「じゃ、お前の名前は夕な。よろしくな、夕」

「あ、うん。よろ、しく」

ちょっとぎこちないながらも挨拶を返してくれた。

やっぱり、いい子だ。

多少経歴過去が気になるが、素直で明るいただの子供だ。

心配は杞憂だったかと、内心でそっと安堵する。

それからしばらくして、神楽と新八も目を覚まして、子供の名前が決まったことをを聞き、同じように挨拶を交わした。


「まあ、とりあえずしばらくはウチにいることになるわけだが……俺たちは万事屋でな、全員で仕事をしてんだ」

名前が決まったら、次は生活についてだ。

何をしているのか等、話しておいたほうがいいだろう。

多分、仕事の間は家に定春と留守番になることが多いと思うが……。

「よろずや?」

聞きなれない言葉らしい。

ま、こいつの星にはそんなものなかったのかもしれないしな。

「つまりね、どんな依頼でも受けて、それをこなして報酬を貰うんだ。何でも屋って言ったら分かりやすいかな?」

新八の補足に、考え込むように視線を彷徨わせる。

「なんでも屋……」

言葉の意味を考えているらしい。

「しっこくのつばさ……」

「ん?」

「あ、何でもない。大丈夫、分かった」

ぼそりと夕が何かを呟いていた。

……漆黒の翼?

なんだそりゃ。

夕は慌ててつくろったが、もしかしたら故郷に関係あるんじゃないか?

機会があれば後で聞いてみるか。

「それで、まあ基本は仕事無くて家にいるけど」

「そう思うなら仕事探してきて下さい」

説明を遮った新八を軽く睨みつける。

「お前らも探せコノヤロー。時々仕事入って少し家を空けるから、お前は留守番を……」

睨み返されながら続けた説明を、今度は夕に遮られた。

「俺も行きたい!」

思わず間の抜けた声を上げる。

「え」

「……仕事に?」

普通、自分から働きたいって言うか?

子供が。

「うん……お世話になってるだけなんて……悪いから」

まるで子供の発言ではない。

そういえばちゃんと聞いていなかったと、返事に質問を織り交ぜた。

「働きたいってんなら、万事屋よりババアのスナックの方がまだ楽だぜ。ていうか、お前は幾つだ?」

そう、年齢だ。

まさかこの外見と振る舞いで三十路とかは言わないと思うが。

気になったのか、神楽たちも夕を凝視する。

「八歳、くらい……」

外見を裏切らない年齢でほっとする。

いや、外見を裏切らないからこそ、先ほどの言動が際立つのだが。

「八歳なら、まだそこら辺で遊んでてもいい年だぞ。神楽だって仕事無い日は遊びに出かけてんだから」

「紹介するアル。小生意気なガキばっかりだけど、夕ならきっと仲良くなれるヨ」

自分のことを棚に上げやがって。

まあそれはともかく、近所のガキんちょどもに紹介するのは賛成だ。

子供なら遊べ。

だが、夕はそれでも首を振った。

「俺が手伝いたいんだ……行かせて下さい。それでもダメなら、諦める」

……やっぱり、いまいち言動が年齢に合っていない。

神楽よりも上に感じるぞ。

八歳、くらい、か。

くらいってあたりに、色々含むところがあるっぽいが……。

周りを見れば、神楽も新八も自分に判断を任せるように見ている。

まあ、俺が万事屋のオーナーだしなァ。

「……分かった。とりあえず、仕事が入ったら、内容に応じて連れてってやっから。けど、無茶はすんじゃねーぞ?」

「ありがとう」

許可を出したら、夕は嬉しそうに微笑んだ。

うーん……。

ガキってこんな笑い方、するもんだっけか?

「銀ちゃん、いいの?」

「まだこのあたりにも慣れてないし、下手に一人にしておくよりいいだろ。まあ、仕事は選ぶから」

それを言えば、神楽と新八を連れて行く仕事も選んでんだが……とりあえずそれは伏せておこう。

「よろしくお願いします」

ぺこりと、丁寧に夕は礼をした。

とりあえずそれに小さく礼を返して、神楽たちに色々細かいことを教えられている夕を眺める。

なんだかなあ……。

拭えない違和感を振り切るように、軽く頭を振った。


振ったら、身振り手振りをしていた神楽に殴られた。


初めまして、よろしく
(まあとりあえず、仮加入で)