何の因果か運命か、俺が紛れ込んだ世界。

そこで俺は優しい人たちに拾われて、今日も何とか生き延びている。


なにぶん知らないことばかりだったので、拾ってくれた人たちにたくさんのことを教わった。

名前のイントネーションとか、大雑把な歴史とか、文字とか、服の着方とか。

その過程で、一つの問いに行き当たった。

「あの……」

「ん、何?」

「俺、あなたたちのこと、何て呼べばいいんだ?」

どさくさ紛れで年上への敬語は外れている。

あれ、そういえば元々大して敬語は使っていなかったような……いや、使ってたかも。

それはいいとして。

自己紹介はしてもらった。

当然名前も知っている。

だが、呼び捨てで呼ぶかと言われると、若干抵抗がある。

俺は七歳なのだ。

聞いたところ、彼らの年は二十代前半、十六歳、十代前半。

一応全員年上。

やはり、呼び捨てには抵抗がある。

「好きに呼んでいいよ。僕たちだって、呼び方なんて、いつの間にか決まってたし」

「そうそう。こう、パッと出てきた名前を呼べばいいアルよ。呼び方なんてそんなものネ」

パッと、パッと出てきたもの。

思いつくもの。

年上の、女性と男性に対して。

……。

いやいや、これは無い。

だって、俺たちに全くつながりなんて無いのに。

「何、何かあったアルか?」

「言ってみなよ。聞くから」

唸っていたら、察されたのか、言うように促された。

ううん、どうするべきか。

果たしてこれは口に出してもいいものなのか?

「大丈夫だよ。どんな呼び方だって驚かないから」

フォローを入れてくれた。

「えっとそれじゃあ、お言葉に甘えさせてもらって……新八兄と神楽姉って……呼んでもいいか?」

もごもごとそういうと、二人ともぴしりと雷が落ちたように固まった。

え、え!

何か地雷踏んだか!?

「ダメか?」

聞いたら、その瞬間、声も出せずに引き寄せられて、抱きしめられた。

「私、弟なんて初めてヨ!」

「神楽ちゃん神楽ちゃん!君が力込めたら夕の骨が折れる!ていうか死ぬ!」

まさにその通りだ。

彼女はちょっと特別な種族だと聞いていたけど……腕力が半端ない。

マジで圧死させられるかと思った。

解放されて、喘ぐ息を整える。

「大丈夫、夕?でも、僕も弟なんていなかったから、嬉しいな……」

二人とも若干照れるようにして笑っている。

ええと、これはいいってことなのか?

確認を取ると、すぐに頷かれた。

いいらしい。

「じゃあそれで。よろしく、新八兄、神楽姉」

「うん、よろしくね」

「よろしくアル、夕!」

改めて握手をする。

やはり呼び名が決まるといい。

少しだけ、仲良くなれた気がする。

「ね、夕。じゃ、銀ちゃんは?銀ちゃんはなんて呼ぶアルか?」

俺を拾ってくれて、手当てをしてくれた人。

神楽姉は銀ちゃん、新八兄は銀さん。

他の人もたいてい銀さんと呼ぶ。

時々、銀時とか、坂田サンとか呼ぶ人もいるけれど。

うーん。

「あの人を見て、最初に思いつくもの……」

「うんうん」

二人が促した。

すると、ふっと頭に言葉が思いついた。

思いつくままにその言葉を口にする。

「……銀父さん?」

沈黙。

もっかい沈黙。

それから。

「あははははっ!!」

「と、と、父さん!?」

二人が大爆笑。

そ、そんなに笑えたのだろうか。

だって、最初に思いついたのがそれだったのだ。

大黒柱というか、支えというか、そこにいるだけで落ち着くというか……。

そういう存在を、父親というのではないだろうか。

あくまで、自分の考えだけれども。

「いや、気持ちは分かるよ!うん、銀さんって父親っぽいもん」

「あははははっ!!未婚の父!?」

神楽姉がなんだか違う方向で笑っている気がするが、気にしないことにした。

多分気にしたら負けだ。

涙が出そうなほど笑っている二人の上から、怒気を孕んだ視線が一つ。

「俺ァそんな年じゃねぇーっ!!」


ずっと無視され続けていた、銀さんの訴えだった。


名前を呼びましょう
(結局銀さんに落ち着いた)