本日の仕事、倉庫の整理。

とある商店の、商品を置いている倉庫の整理整頓を手伝って欲しいとのことだった。

まあ、それなら子供たちを連れて行っても問題ないだろうと、

仕事が入ったことを報告し、共にその商店の倉庫へ。

訂正、倉庫じゃない。

ここはただの……。

「何これ!?」

「前が見えない……」

「ウチの押入れみたいアルな」

「……倉庫じゃないだろ。これ」

ただの、ゴミステーションだ。

少し顔を入れただけで、嫌な臭いが鼻につく。

何だこれは。

腐った食べ物か?

いや、もっと気持ちの悪い臭いだ。

たとえるなら、口臭の臭いおっさんが吐き出した汚物みたいな臭いだ。

「いやー、悪いね。しばらく放置してたらこんなんなっちまって」

「倉庫を放置!?」

思わず新八が突っ込む。

うん、無理ない。

ていうか俺も突っ込みたい。

「で、何をすればいいんですか?」

「とりあえず、中にあるものを運びだして、中身を出してくれ。

使えるか使えないかは俺が判断して、使えないものをまとめて捨てに行って欲しいんだ」

「え、こん中にまだ使えるもの、あるのか」

夕の疑問ももっともだ。

もし使えても、きっとそれは使いたくない臭いがすることだろう。

「きっとあるさ。じゃ、頼むよ」

店主は後は任せたと言わんばかりの笑顔で、倉庫の前を去っていく。

呆然と立ち尽くす俺たちばかりが、残された。

「……どうするんですか、銀さん」

「どうするったって、仕事なんだからやるっきゃねーだろ。

そうだな……新八、夕、お前らでちょっと店行って、マスクと消臭剤と殺菌剤買って来い。

神楽、俺らで、軍手と、ハタキを家に取りに行くぞ」

面倒くさいがやるしかない。

そして、最低限それだけの装備がなければ、この中には入れない。

というか入りたくない。

終わった暁には、みんなで銭湯にでも行って臭いを落とそう。

「分かりました。夕君、行こうか」

「あ、おう!」

元気に返事をした夕を連れて、新八は町へと向かった。

「神楽、俺たちも行くぞ」

「あいあいさー」

俺も、神楽と共に家へ。


一時間後、装備を携え、装着し、いざ戦場へ。

「げほげほ、気持ち悪っ」

「夕君、なるべく空気を吸わないようにね。マスクがあっても……これは防ぎきれないだろうし」

菌が発生している前提の会話だ。

いや、俺も発生してると思う。

「なるべく手前から運ぶぞ。神楽は……そこの重そうな箱、出せ。

新八は、俺とこの箱。夕はそこに立てかけてあるよく分かんねえ棒を運べ」

「分かったネ」

「はい」

「分かった」

指示を出して、次々に運び出していく。

神楽はこの中で一番力があるので、重そうなものを。

中くらいのものを、俺と新八で。

他、軽くて細かいものたちを夕に任せた。

時に強烈な刺激臭のあるものと戦いながら、中のものを運び出していく。

ようやく終わりが見え始めるころには、四時間ほど経っていた。

途中で夕に店主を呼びに行かせ、運び出したものを検分させる。

箒、テーブル、傘と言ったまだ普通なものから、

洗剤、冷蔵庫、衣類と言った何でそんなものが倉庫に入ってるんだというもの、

果てにはゴミ(本当に入ってた。ゴミステーションに間違いは無い)、野菜、花など、

倉庫に入れるんじゃねーよそんなものと思うものまであった。

運び出しと検分を同時に行い、

ようやく倉庫(と書いてゴミステーションと読む)の中が空になったときには、

既に日が沈もうとしていた。

ぐでりと、互いに寄りかかり合って、座り込んでいる。

「いやー、助かったよ。これで倉庫を使える」

使えないまでにしたのはアンタだと、心の中だけで突っ込んだ。

多分、みんなもそう思ってる。

口に出すだけの体力が残ってないだけで。

「ありがとさん。ほい、これ今日の報酬な」

差し出された袋を確認する。

労働の割には多少合わない気がするが、まあ少なすぎるほどでもない。

「これからも万事屋銀ちゃんをごひいきにー……」

一応決まり文句を言ってみる。

でも、ぶっちゃけもう贔屓にされたくない。

が。

「ああ、また何かあったら頼むよ。お疲れさん」

満足そうにそういわれた。

いや、しなくていい。

そう口に出す元気は、やはり無かった。


「あー疲れた」

夕が汗を軍手で拭いながら歩く。

「夕君が来てからは初めての力仕事だね」

「どうだったアルか?」

新八と神楽がそう聞きながら覗き込んで、夕は少し迷った後に。

「……疲れたけど、悪くないよ」

そう小さく笑った。

「うんうん、人にお礼言われるって、嬉しいアルよね」

「うん」

神楽が頷くのに応えて、夕も笑った。

それはそれは嬉しそうに笑った。

だから、自然と俺たちの顔もほころんで。

「よっし、一回家に帰って、金置いてタオルとって、みんなで銭湯行って臭いと汚れ落とすぞ。

夕飯はそれからだ」

かねてから考えていた提案に、新八が頷いた。

「いいですね。夕君は銭湯は初めてでしょ?」

「せんとう?」

夕が首をかしげる。

「みんなで入るお風呂ヨ。広くて気持ちいいアルよ」

「ちなみに言っとくが、みんなつっても男女は分かれてるからな」

一応、誤解をさせないように注意を入れる。

夕はほっとしたように頷いた。

「それじゃ、早く行こうヨ。私、もうお腹ぺこぺこネ」

「お前はいつだって腹空かせてるだろ」

こつんと神楽を小突いてから、まあ、早く臭いを落としたくはあるし、急ぐに越したことはないと思う。

「じゃ、行くか」

促して、頷く面々を見ながら、夕日を背に家へと急いだ。


夕焼け色に染まった、空の下で。


夕焼けと共に
(隣にいるその色は、まだ、嬉しそうに笑っていた)