ばっしゃんと、小気味良い音と共に勢い良く水があふれた。

「ひっれーっ!」

夕が風呂に飛び込んだ音だ。

「夕君、あまり水をあふれさせちゃだめだよ」

「あ、ごめん」

新八が苦笑しながら注意を入れる。

夕は素直に謝った。

「おい、夕、先に体洗え。その方がすっきりすんぞ」

「ん」

呼びかければ、夕は湯船から出てきて隣にちょこんと座った。

さらにその隣に、新八が座る。

一度シャワーで一流ししてから、持ってきたシャンプーなどで頭を洗い出した。

俺も頭を洗う。

俺や新八は短くて楽だ。

夕の髪は、俺たちより少しだけ長い。

襟元の辺りで切りそろえられている。

むしろ洗いにくい長さなんじゃないかと思ったが、夕は慣れたようにわしゃわしゃと洗っていた。



体を洗い終わった後、三人でのったりと湯船に浸かった。

カコーンなんて音が聞こえてきそうだ。

日中の疲れを落とすように湯船を満喫した後、風呂を出て、

軽く水気をふき取った後、着替えて髪を乾かした。

夕は髪を乾かすのには慣れていないらしく、よくてこずっている。

結局毎回、それを見かねて俺が手を出すんだが。

ぶぉー、とドライヤーの音が響く。

夕は心地よそうにされるがままになっていた。

「初銭湯はどうだったよ?」

「気持ちよかったー」

その声は至福に満ちている。

どうやら銭湯はお気に召したらしい。


更衣室を出れば、既に神楽がいて、暇そうに足をぶらぶらさせていた。

俺たちを見つけると、待ってましたとばかりに駆け寄ってくる。

「銀ちゃん、ここ、食堂もあるんだって!私もうお腹空いたから、ここで食べてこ!」

神楽が指差すほうにひょいと顔を向ければ、なるほど確かに食堂がある。

来たときには気付かなかったが。

値段もそれほど高くはないようだ。

「食べてくか。家帰ってなんか作る気もないしな」

「やった!」

「ごはん!」

神楽と、それについて夕がぱたぱたと駆けて行く。

それを新八と共に見守りながら、後に続いた。


神楽に五人前までと制限を出し、適当に注文する。

ごおお、と掃除機のような音を立てながら、神楽と夕はメシをかっ込んでいた。

「夕君、急いで食べると喉つまらせるよー」

新八が苦笑しながら、夕の水差しに水を足す。

夕がお礼を言って、その水を飲んだ。

そういう俺も、ちびちびと酒を飲んでいる。

原チャで来たわけでもないし、風呂上りにはやはり酒が欲しい。

新八から許可も貰って、心置きなくそれを胃に流し込む。

神楽が追加でチャーハンを注文して、少しして店員のおばさんがそれを持ってきた。

「お待たせしました。チャーハンです」

「ども」

「ありがとうございます」

新八が受け取って、神楽の前に置いた。

神楽は前に食べていたものを飲み込んでから、それに取り掛かる。

その様子を微笑ましそうに眺めてから、おばさんはにこりと笑った。

「お宅ら、家族かい?」

全員が、きょとん、とおばさんを見返す。

それから少しして。

「ほうあふひょ!」

「神楽姉、ご飯飛んでる!」

「はい、家族です」

まともに返事をしたのは新八だけだったが、それでも満足そうにおばさんは微笑んだ。

「仲のいい家族だねえ」

ごゆっくり、とおばさんは厨房に戻っていく。

それを見やりながら、ようやくご飯を飲み込んだ神楽と共に、新八は顔を見合わせて笑った。

「家族だって」

「やっぱりそう見えるんだね」

声を立てて笑い出しそうな二人を見ながら、夕が口を開く。

「な」

「何、夕君」

「……俺も、家族?」

またもや一瞬、夕を除いた全員がきょとんとして。

その間に、夕が不安そうな顔をしたもんだから。

その夕焼け色の頭を、わしゃわしゃと撫でた。

「当たり前だろ」

そう言い切ってやる。

「うんうん」

「夕も立派な、万事屋ファミリーの一員ヨ」

新八と神楽も、当然とばかりに頷く。

本日二回目。

夕はとても嬉しそうに笑った。


動いて風呂に入ってご飯を食べて満たされたのか、帰る時間の頃には夕はすっかり眠っていた。

それを背負い、帰路を取る。

「夕、幸せそうヨ」

「うん」

起こさないように、新八と神楽がひそひそ声で話す。

それから、新八は、あ、と声を上げて。

「家族ってことは、やっぱり銀さんはおとうさ」

「止めてくれ」

だから俺は、まだこんなにガキを持つ年じゃない。


笑う子供たちをいさめながら、背負った重さに、俺も笑った。


家族ごっこ
(せめて兄にしてくれ)