「……夕、お前味見してるか」

「え?」


「はーい、これから銀さん主催の料理指導を始めまーす」

銀さんがぱんぱんと手を叩く。

みんなにも散々言われた俺の料理の腕は当然変わるはずもなく、

それを見かねた銀さんによって料理指導してもらうことになった。

ついでに、新八兄と神楽姉も参加している。

新八兄は自主的参加だが、神楽姉は銀さんと新八兄による強制参加だ。

まあ確かに、俺は神楽姉が当番の時に、

たまごご飯とふりかけご飯以外の料理(?)を食べたことがない。

「はい、まず料理に大切なものは何だ、新八!」

「え、僕ですか?えっと、材料?」

突然指名された新八兄が、考えながら答える。

すると銀さんがそれは渋い顔を作った。

「お前の姉貴の料理を思い出せ。何を使っても焼けた何かになるだろうが。

次、神楽!」

年齢順か。

「量!」

「違うだろ、それはお前だけだ!ていうかお前はどんな量でも平らげるだろ!

次、夕!」

俺の番が回ってきたので、とりあえず無難に答えた。

「味、か?」

もともとそれが原因でこんなことをすることになったんだし。

「それもお前の場合な。惜しいっちゃ惜しいが。

とにかく、料理作ったら味見しろよ」

「……気をつける」

違った。

それでもって銀さんが言ってることは多分尤もだ。

そういえばあいつはいつも味見をしていたような……気がしなくもない。

料理上手の仲間を思い返すが、よく覚えていない。

銀さんが、ため息をついて俺たちを見渡した。

「お前ら、なってねえな。いいか、料理に大切なのは、食べるっつー認識だ」

「?」


意味がよく分からなくて首をかしげた。

銀さんが続ける。

「食っていうのは、人生三大幸福の一つだ。ちなみに後は睡眠と運動な」

「それ、どっちかというと健康に必要な三要素じゃないですか。

……まあ、あながち間違ってはいないと思いますけど」

新八兄のツッコミが入った。

確かに、まともに生きられるということは、幸せなことなのだろう。

「つまりは、食は見て楽しんで、食べて楽しんで、

かつ生命に必要な栄養を得るための行為だ!」

「あ、銀さんがまともなこと言ってる」

「同感。てっきり甘いものは正義だとか言い始めるのかと思った」

頷きあう俺と新八兄に、銀さんがビシっと指導する。

「そこ、静かに!確かに甘いものは正義だけどよ」

「言うんだ」

思わず俺も突っ込んだ。

なんだかここに来てから突っ込みスキルが上がった気がする。

まあそれはともかくとして。

「つまりは、以上の食事の持つ意味を踏まえた意味で作れってことだ」

つまりは、味がよくて見目もよくて、栄養もあるものということだ。

確かに銀さんの料理は美味しいし、盛り付けも上手いと思う。

栄養に関してはよく分からないけど。

そこで神楽姉が挙手した。

銀さんが発言を促した。

「何だ神楽」

「なら卵かけご飯は全て条件が揃ってるアル!何がいけないアルか!」

「いやいや、揃ってないから。

百歩譲って味と見た目がいいとしても、栄養が著しく偏ってるから」

新八兄がすぐさま突っ込んだ。

銀さんも頷く。

「炭水化物とたんぱく質しかなくね?何より糖分が無い」

「糖分は要りませんよ」

このままだとボケと突っ込みの応酬で終わりそうだったから、

割り込んで話を持ち直させた。

「味は味見すればいいとして……するよ、うん、

ええと、見た目って、おいしそうに盛り付けるコツとか、ないのか?」

途中で銀さんが意味ありげに視線を向けてきたから、

ちょっと申し訳ない気分で頷いた。

それはともかくとして。

ああなんでこんなに話が逸れるんだろ。

聞くと、銀さんはうーむと顎に手をやって唸る。

「そうだな……円を描くように盛り付けるとか、色の組み合わせを考慮するとか、

何かコンセプトを作るとか……まあ自分の好き好きだな。

味がよければ誰も文句は言わねーから、好きに盛り付けろ」

微妙にアドバイスのようでアドバイスになってない。

結局好きにしろとしか言われてないぞ。

「よーし、じゃあ以上を踏まえた上で、早速作ってみろ。

論より実行だ。作るものは何でもいい。ただし制限時間は昼飯まで」

ああ、昼ごはんにするのか。

ちらりと時計を見れば、現在午前十時。

昼ごはんの時間は正午。

二時間あれば、そこそこ何か作れるんじゃないか?

でも、何作ろう。

「開始!あ、ちなみに俺審判だから作らないからな」

「銀ちゃんサボりアル!」

さらっと付け加えた銀さんに、神楽姉が反発する。

確かにサボりだとは思うけど、銀さんはいつもちゃんと作ってるんだし。

それを言ったら新八兄も作ってると思うんだけどな……?

おっと、新八兄もう作り始めてる。

俺も何か作らないと。

……何にしよう。


結果。

神楽姉は卵ふりかけご飯だった。

いやだから何でそこにこだわるんだ。

混ぜる意味が分からない。

ちなみに銀さんの評価は五点。

八十九点満点らしい。

中途半端にも程がある。

俺は野菜炒めを作った。

それほど難易度が高くなくて、あんまり失敗もなさそうで、

且つ盛り付けの練習にもなりそうなもの。

でも危うく胡椒を入れすぎるところで銀さんに止められた。

なるほど、ちょっとずつ入れながら味見するのか。

いい勉強になった。

銀さんによる評価は三十点。

曰くもう一工夫欲しいってことだった。

工夫って何をすればいいんだろう?

後で詳しく聞こう。

新八兄は味噌汁を作った。

これは何かもう、料理の練習っていうより、

俺と神楽姉の作るものを予測した上でのチョイスな気がする。

だってご飯に野菜炒めに味噌汁って結構バランスいいだろ。

具も普通だし。

でも銀さんの評価は五と十分の一点。

ありふれたもの過ぎて地味だということだった。

バランスを考慮して作った辺りは十分の一点に反映されていたらしい。

ていうか十分の一点て。

小数も入るのかよこの採点。

内心で突っ込みつつも、四人で揃って昼ごはんを食べた。

ちょっとおかずが足りなかったので、それは冷凍食品で埋め合わせた。

「卵ふりかけご飯美味しいアル!大発見アル!」

「発見ていうか……これ卵にふりかけが浮いてるだけじゃない?」

「ふりかけの味あんまり分からない気がする」

「腹に入ればみな同じ、だな」

銀さんさっきと言ってることが違う。

それじゃあ味付けの意味がないじゃないか。

ああ、でも。

「ふ?ふう、はひかいっは?」

「神楽ちゃん口にもの入れながら喋らないで」

口いっぱいに卵ふりかけご飯をつめながら言った神楽姉に、新八兄が注意する。

それを見ながら、笑って俺は答えた。

「なーんも」

俺は思うんだ。

「お代わり!」

「神楽ちゃん、よくそれでそんなに食べられるね」

どんなに豪華な味付けだったとしても。

「新八、俺もお代わり」

「はいはい……って僕はお代わりよそい係じゃないんですが」

「似たようなもんだって」

どんなに高価な食材を使っていたとしても。

「新八兄、俺も!」

「だから……まあいいか」

「新八、お代わり!」

新八兄の言葉にかぶさるように、神楽姉の言葉がかぶさった。

ちょっと待て。

「ちょ、神楽姉早過ぎ!さっきお代わりしたばっかだろ!?」

さっき山盛りになってた茶碗が空になっている。

一体どういう速さで飲み込んでるんだ。

「ふ、甘いな夕……」

「神楽ちゃんの本気は、こんなもんじゃないんだよ……」

しかし、二人はどこか諦めたような目で遠くを見ている。

え、これで本気じゃないのか?

この速さで!?

驚いている間にも神楽姉はどんどん食べてくし、

それに負けじと銀さんも箸を忙しなく動かすもんだから。

ご飯を確保するために俺と新八兄も必然的に参戦することになって。

ご飯の取り合いが始まって。

食卓は戦場と化しちまったけど。

「あー、銀さん、それ俺の!」

「油断すれば盗られる、それがこの世界だ!」

「じゃあ僕もこれ頂きます!」

「てめ、こら新八!覚悟できてんのかオラァ!」

「食卓にあるものはすべてこの女王神楽のものネ!」

「いや俺のだ!」

「とりあえずこのエビフライは俺の!」

「何!?」

戦利品の(冷凍食品だけど)エビフライを口に突っ込みながら、小さく笑った。


……誰かと食べる美味しさに、勝るものはないよな。


料理指導
(馬鹿みたいなやり取りが、楽しくて仕方なかった)