六話


「それって……どういう、ことですか」

八はあえてもう一度、聞きなおした。

桂は新八は本当は分かっていることを知りながら、いわれたとおり言い直す。

「坂田銀時という人間は、もともと存在しない。

あいつは、銀空という人間が生み出した、もう一人の人格だ」

新八と神楽は驚きのあまり、数瞬固まった。

だが、その後幾度か瞬きをして、再び視線を強くする。

「それで……その人、“銀空”さんとは、どうやって出会ったんですか」

「うむ……あの日のことは、今でもよく覚えている」


「先生、虎がいじめられているんです!」

「虎太郎が!?どこです?」

子どもが、一人の男性を引っ張って走っていく。

手を引かれながら、男性も足をもつれさせまいと必死に走った。

しばらく走っていた二人は、川のほとりで、

やや大きい子供達に蹴られながら丸くなっている小さな子どもを見つけた。

「虎太郎!」

「せ、せん、せえ……っ」

男性は慌てて駆け寄ろうとする。

だがそれを、大きい子供達が制した。

「あなたたち、何をしてるのです!」

「決まってんだろ!悪の親玉のあんたの手下を退治してんのさ!」

大きい子供達は意地の悪そうな笑いをする。

「悪の親玉……?」

「そうだよ!余所からあんたが来たせいで、この村は凶作になったんだ!

今までこんなことはなかった!みんな言ってることだぜ!」

そうだそうだと大きい子供達は声高に叫ぶ。

男性はとにかく虎太郎を助けようと、反論した。

虎太郎は、いまだ蹴られながら、男性を涙声で呼んでいる。

「村が凶作になってしまったのは天人が訪れたことによる、気候の不安定さのせいです!

私のせいではありません!たとえそうだとしても、それなら虎太郎ではなく、私を狙えばいいでしょう!」

「悪の親玉をやるのは最後だろ!まずは手下からだ!」

大きな子供が勢いよく踏みつけようと、足を大きく上げた。

「止めなさい!」

男性が手を伸ばしてそれを止めようとするが、他の子供達が邪魔をする。

それでも何とかしようと男性が子供達を抜けようとしたとき、大きな子どもが二人ほど、倒れた。

「!?」

「くっだんねー」

子ども二人が倒れた先に、隠れていて見えなかった小さな子どもがいる。

こちらは、虎太郎と同じくらいの背だ。

その手には、鞘に収まった刀がある。

その子どもは、鞘で二人の子どもを殴ったようだ。

「どうせそのセンセイとやらに敵わないから、この子どもをやろうとしたんだろ。

くだらないし、バカだな」

「な、てめえ、見ない顔だな!どこのモンだ!」

残っていた子供達が、その小さな子どもを問い詰める。

その隙に、虎太郎は男性の元へと逃げた。

小さな子供は、鞘を持ったまま大きな子供達を睨みつける。

「お前らに、せっかく作った焚き火の準備を壊された者だよ」

小さな子どもは、先ほど倒れた子供達の足元を指す。

その下には、薪が集められた小さな焚き火の跡があった。

「先に戻ってみればこれだ……どうしてやろうか」

小さな子供は、眼をぎらぎらとさせながら一歩一歩歩み寄る。

「ひ……っ」

その威圧に、子供達は悲鳴を上げた。

「待って下さい!」

小さな子供を、男性が制した。

子供は、次にその睨みを男性に移す。

「確かにこの子供達は悪いことをしたかもしれませんが、何も暴力で解決する必要はありません。

その手に持っている鞘を、置いて下さい」

話し合いをしようということだ。

小さな子供は、それを鼻で笑う。

「は、甘ったれてんな。こういうバカたちは、一度やられないと分かんねーんだよ。

それに、俺も刀を手放すつもりはねー。

うかつに手放した途端に死ぬと思えと……そう教えられてるからな」

最後の言葉は、若干嬉しそうに顔を緩めながら言った。

その様子に男性は驚きながらも、何とか事態を収束させようと試みる。

緊迫していた空気に耐えられなくなったのか、小さな子供の威圧に耐えられなくなったのか、

大きな子供達は、不意に走って逃げ出した。

「母さんに言いつけてやる!」

「見てろよ!」

倒れた子どもたちを置き去りにして、彼らは走り去った。

小さな子供は、それをつまらなさそうに眺めていた。

「それが何だ。自分じゃ何も出来ない臆病者どもめ」

吐き捨てるようにそういい、子供は壊された焚き火を直そうと、身を屈める。

男性と、子供達を無視したその行為に、男性を連れてきた子どもがキッと小さな子供をにらみつけた。

「何者だ、お前!」

「ああ?人にものを尋ねる時は自分からって、俺は教わったぜ?」

小さな子供は顔も向けずに言う。

子供は男性を見上げ、男性がそれを見て頷いた。

「俺は桂小太郎というものだ。お前は?」

「私は吉田松陽というものです。あなたの名前を伺ってもよろしいですか?」

子供はちらりと三人に目線を向ける。

一瞥しただけで子供は視線を再び焚き火へと戻した。

「俺に名乗る義務はねー」

「貴様……っ!」

小太郎は歯をかみ締めて子どもを怒鳴りつけようとしたが、松陽がそれを制する。

「では、私の塾の子どもを助けて頂いた礼だけでも。虎太郎、お礼を言いなさい」

松陽は後ろに隠れていた虎太郎を促す。

虎太郎はもじもじとしながら前に出た。

「あの……ありがと」

「別に。俺は焚き火を壊された仕返しをしただけだ」

子どもの反応は素っ気無い。

それでも松陽はにっこりと笑った。

「それでもあなたが虎太郎を助けてくれたことには変わりありません。ありがとうございました」

子供は答えない。

「しいては、少々お礼をしたのですが、どうでしょう?」

子供は今度はしばし手を止める。

少し考える素振りを見せてから、再び手を動かし始めた。

「さあな」

「さあな、とは?」

「それを決める権利は俺にはない」

「連れの方がいらっしゃるんですね」

よく見れば焚き火も、一人分にしてはやや大きい。

子供は返事をしない。

松陽はそれを肯定とみなした。

「ではその方はどちらに……」

言いかけて、松陽は顔を上げた。

何か視線を感じたからだ。

その方向は、後ろ。

「誰だ?」


見事な銀髪の少年が、そこに立っていた。