七話


「ぎ……っとと」

少年の名前を言いかけた子供は、慌てて口を押さえる。

それから、窺うように少年の顔を見た。

少年が小さく頷いたのを見て、子供はほうっと息をつく。

「誰だ、と俺は聞いたんだが」

少年は歩き続けて、松陽と小太郎らを抜き、子供との間に立った。

その右手はいつでも刀を抜けるよう、鞘に添えられている。

「私達はその子……ひいてはその子の連れであるあなたにお礼をしたいだけです。争う気はありません」

少年は、刀から手を離さない。

ちらりと、少年は後ろの子供に目配せした。

「あ、おう。ええとな、先に戻ったら、

近くの村のガキんちょ共に薪を壊されてたから、叩きのめしてやったら、

そこのやつらがお礼を言いたいとか言い出して」

子供がその意図に気付いて、慌てて説明をする。

その説明に、松陽が補足を入れた。

「その子供たちが、私の私塾の子供を苛めていて、

結果的にその子が助けてくれた形になったので、ぜひお礼をと……」

「要らない」

少年は、すっぱりと断った。

「俺たちは旅の者だ。何かに深く関与するつもりも、関与されるつもりもない。

礼は心だけ受け取っておく。立ち去れ」

そういうと、少年は刀を握る手に力を込める。

聞かないなら、多少の荒事は辞さない、ということだ。

松陽はどうすべきか少しばかり考えた後、手を上げた。

少年は静かにその様子を見ている。

「その警戒心も、旅をしているというなら納得できます。

ですが、だからこそ受けられる施しは受けられる時に受けておいた方がよいのでは?

ましてや、貴方達は子供なのですから……」

子供は、少年の背だけを見つめていた。

小太郎たちは松陽たちを若干不安げに見つめている。

少年と松陽は向き合って対峙している。

数分ほど立った後、少年はくるりと背を向けた。

そして、焚き火の跡を片付ける。

「えっと……」

それに一番戸惑ったのは子供で、いたたまれなく視線を漂わせる。

片付けた後、少年は再び松陽たちの方をむいた。

「分かった。申し出、受ける」

「いいのか?」

頷いた少年に、子供が不安そうに尋ねる。

「良くないのなら、そう返事はしない」

そういえばそうかと頷きながら、子供は少年の後ろに付いた。

「案内する前に、名前を教えていただけませんか?」

少年が、子供に向かって頷く。

子供はしぶしぶと呟いた。

「……晋助」

続いて、少年も顔を上げて、名を名乗る。


「銀空」