小話閑話集2


7.テレビ


買い物から帰ってきたら、家の中はとても静かだった。

神楽ちゃんは遊びに言ってるとして、銀さんはどうしたんだろう?

居間にたどり着く前にわずかに声が漏れてくる。

それは、人の声だけど、人の声じゃない。

居間に入ったら、テレビをつけっぱなしのまま、銀さんがソファで寝こけていた。

「全く、こんなところで寝て。風邪引いても知りませんからね」

ため息をついて、荷物をテーブルの上に置く。

しょうがないから、和室からかけるものを取ってきてかけてやった。

さて、これを冷蔵庫に仕舞わねば。

その前に、つけっぱなしだったテレビを消しておこうか。

そういえば、何のテレビを見ていたんだろう、銀さん。

……。

今度、いちご牛乳でも買ってきてあげようかな。

「このように、明日はとても紫外線が強い一日となります。肌の弱い方はお気をつけ下さい」

ぽちっ。


8.雷


すさまじい音を立てて、雷が鳴った。

「ぎぎぎ銀ちゃん、ピシャンて、ピシャンて言ってるヨ!」

「そりゃ、雷だからな」

もう一度、鳴った。

「ご、ゴロゴロって!なんで雷ってあんなにすごい音立ててるんですか!」

「さーな、機嫌でも悪いんじゃねーか」

雷嫌いの子供たちは、光ったり鳴ったりする度に、しがみついて叫んでた。

(こりゃ、今夜は徹夜かもなー)


9.料理


「……」

「どーしたお前ら。食わねーのか」

フライパンを片手に、台所に立っていた銀時が言った。

「いや、あの」

「銀ちゃんが料理できるとは思わなかったアルよ」

濁す新八を遮って、神楽がすっぱりと言った。

「失礼なやつらだな。銀さんは何でもできるから万事屋になったの。

実は達人なの。一人暮らしだったのに、出来ねー方がおかしいだろうが」

うそこけ、とそこだけ二人の心境はハモった。

じゃあ何で冷蔵庫にいちご牛乳しか入ってなかったんだ、とか。

フライパンや鍋が埃をかぶっていたのは何故か、とか言いたいことはあったのだが。

とりあえずそれらを飲み込んで、箸を手にする。

「「い、いただきまーす」」

恐る恐る、銀時特製肉じゃがとやらを口に入れた。

そして、固まること一秒。

「美味しい!」

「うまいアル!」

同時に歓声をあげた。

「だから言ったろー?」

こんなに美味しいのに、何で今まで自分で作らなかったんだ、という疑問は、ジャガイモの中に溶けた。


10.帰宅


戸が、ガララと開いた音がした。

留守番をしていた神楽は、多分銀時が帰ってきた音だろうと当たりをつける。

あー疲れた、とかいいながら上がって来た銀時を視界に入れて、ただ一言。

「お帰りアルよ」

この言葉を言うのもいつぶりか。

父親が全然帰ってこなくて、家を飛び出してからは多分初めてだ。

用心棒をやっている間、そんなことを言われた記憶がないから。

ここに来たばっかりの時は、まだ言えなかった。

平和な毎日に何となく馴染めない気がしていた。

でも、今は自信を持っていえる。

ここは、自分の家だ。

温かい自分の居場所。

そう思うと、誰かが帰ってくるのが嬉しくて、神楽は思わず笑顔を作る。

そして、なかなか居間に入ってこない銀時を訝しんで、もう一度玄関を覗く。

すると、そこには変な顔で固まった銀時がいた。

一体どうしたというんだろう。

自分は何か変なことを言っただろうか。

誰かが帰ってきたら、お帰りというのは当たり前。

そこまで考えてから、今まで銀時にとってそれは当たり前ではなかったのだと気づく。

面倒くさい奴、と神楽は笑顔のままで銀時の方に向かって。

「銀ちゃん、お帰り言われたらただいまアルよ」

そう言ってやった。

「お、おお、そうだな。……ただいま」

今自分に気づいたように返事をして、少し間があってから言葉を続けた。

ちゃんと言ったことに満足。

そして、神楽は銀時の手を引いて居間に入った。

「銀ちゃん、私お腹空いたアル!何か作って!」

しょーがねーな、と呟かれた。

後ろは振り向いていないけど、多分笑顔なんだと思う。


11.布団


天気、晴天。

絶好の干し日和。

時刻、だいたい午前九時。

新八は仁王立ちで立っていた。

目の前にはだらしなく惰眠を貪る銀時。

いつもより家の方の家事に時間がかかって、来るのが遅れたのだ。

どうせ自分が行かなくても勝手におきて勝手に朝ごはんぐらい食べているだろうと。

そう思い、それほど急がずのんびり来てみれば。

このザマだ。

ぴき、と新八のこめかみが音を立てる。

そして、気合をいれ、すーっと息を吸い込んで。

「起きろぉぉぉ!!この惰眠人間!!」

叫びながら布団を持ち上げて銀時を転がした。

すさまじい勢いで銀時は転がって、たたみに落ちる。

ぐえ、と何かつぶれた音がした気がしたが、無視だ。

朝っぱらから何すんの、と抗議の声も聞こえたがやっぱり無視だ。

そのまま布団を持ちあげて、まぶしい太陽の下で干した。


12.夢


ふと、気配を感じて目を覚ました。

のっそりと起き上がって、戸を見ると。

ゆっくり戸が開いて、やっぱりそこにはもう一人の住人がいた。

「どーした、神楽」

「銀ちゃん…」

よろよろと歩いてきて、倒れこんでくる。

慌てて支えると、その体は震えていた。

「銀ちゃん、ここにいるよネ、いなくならないアルよね…」

「…うん」

深くは聞かずに、神楽の背中をさすった。

「夢、見たヨ」

今度は何も言わずに、たださすり続けている。

「真っ暗で、何も無くて、誰もいなくて……銀ちゃんも新八も定春も、誰もいなくて」

怖かった、という神楽の声も、やはり震えていた。

「うんうん、怖かったんだな。ほら、銀さんちゃんとここにいるからね。

お前が寝るまでいてやるから、安心して寝ろ。子供は夜は寝るもんだ」

安心させるように、眠るまでずっと声をかけ続けてやる。

ようやく眠っても、神楽は腕にしがみついて離さなかった。

「……ガキをこんなにするなんて、親の顔がみてーぜ」

夜はまだ長い。


神楽の家庭状況を知ったのは、それから少し後だった。