小話閑話集3


13.散歩


「あ〜だる。何でこんな日に散歩なんぞに付き合わなきゃいけねーんだ」

「いいじゃないですか、たまには。万事屋が定春の飼い主なんですから」

朝から何となくやる気が無かった。

何をするにも気合が入らず気が乗らない。

仕事も入っていないし、どうせそうそう仕事なんて入らないし、ジャンプでも読みながら寛ごうと思っていたのだ。

だというのに、今のこの状況。

上にはじりじりと照りつける太陽。

下には乾ききった土。

右には誰もいなくて(むしろいたら怖い)、左には苦笑する新八。

後ろにはベンチの背もたれ。

そして前には定春とじゃれあっている神楽だ。

場所は、散歩コースのひとつらしい、公園。

端から見れば何とも微笑ましい光景に違いない。

だが、今の自分にとってはただ面倒なだけだ。

「第一、こんな天気いいのに部屋にこもっていたら不健康ですよ」

「外で遊ぶのはガキの仕事、中でごろごろするのが俺の仕事」

「いや、違いますから。ていうか銀さん限定?」

新八が思わずと言った感じで突っ込む。

もちろん、とやっぱり気だるげに返事した。

「銀ちゃん、新八!次行こ!」

一通り遊び終わったらしい。

神楽が若干汗をにじませながら手招きしている。

あーだるい。

何となく渋っていると、急に手がぐんと引っ張られた。

「早く、早く!」

神楽が俺と新八の手を引っ張って走っている。

夜兎の腕力と脚力は半端ない。

腕がもげそうだ。

「あー分かった分かった!ちゃんと行くから!」

言ってやると、神楽は嬉しそうに手を放した。

横を見れば新八が死にそうになっている。

一言、めげるな、と微妙に励ましてから、先を歩き出した神楽に続いた。

あいつが見ていない隙にこっそり抜けだそうかと思っていたのだが、

時々振り返っては、俺達がきちんとついてきているのを確認している。

帰れそうにねーな、こりゃ。


14.悩み


最近ちょっと迷っている。

僕はここで働き続けるべきだろうか?

上司は怠け者だし、同僚はちょっと(の範囲かは知らないが)暴力的、ペットのじゃれつきは致命傷レベルでしかも給料は少ない。

ボケばかりの職場は突っ込みも一瞬たりとも休めない。

いや、これは別にいいとして。

姉上と共に道場の復興を目的に掲げてはいるが、これもいつ達成されるのやら。

その前に近藤さん(と書いてストーカーと読む)を何とかするべきか。

それが解決するまで姉上が少しずつ重ねている家の武装は終わらないだろう。

とと、またずれた。

ええと、僕は。

「新八!定春のご飯、どこ!?」

「そこの戸棚に入ってない?」

手を休めて振り向き、指差す。

少しして、あったー、と声が聞こえてきた。

それで。

「新八ィ、ここに置いといた、俺のジャンプ知らね?」

「三日間ずっとテーブルの上においてあったジャンプなら片付けましたよ。押入れです」

「おいィ!何でそんなとこに!」

万事屋の押入れは、たいてい混沌として散らかっている。

時々整理に励んでいるけれど、なぜかいつまでたっても終わらない謎の領域だ。

銀さんがばたばたと走っていく。

それで……えーと、あれ、僕、何考えてたんだっけ。

手を休めずに考え込む。

銀さんの、俺のジャンプがあぁぁという叫び声が聞こえた。

ざまみろ。

じゃなくて、えーと。

思い出せない。

……ま、いいか。

炒め終わったチャーハンを、お皿に盛るべくキッチンを離れた。


15.金勘定


久しぶりの依頼をこなして報酬を得た。

さして多くは無いが、仕事があるだけ文句は言えない。

あー。

神楽の食費にこれくらい、定春の食費にこれくらい、と。

そろそろ新八に給料やらないとクーデター起こすかもな。

おっと、明日大江戸ストアで特売か。

新八に知らせとかねーと。

んで、神楽の給料どうするか。

今月は酢昆布で我慢して貰うか。

そもそも食費で新八の給料上回ってんだぞ。

遠慮とかねーのか、あいつら。

いや、神楽が少食だったら、それはそれで病院に担ぎ込むけどな。

それから、不本意極まりねーが、家賃も払わねーと。

うわ、差し引いて残額千円切ってるぜ。

果たして次の仕事まで俺はメシ食えんのか。

……冗談にならない。

もうちょっと仕事入ってこないもんかね。

あーあ、と呟いて、我が家の引き戸を開けた。